ドイツ薬剤師連盟(ABDA)のレポート:薬局2030年 ドイツにおける医薬品供給への展望
日本は2025年に、団塊の世代が後期高齢者年齢である75歳に達し、高齢化率(65歳以上の人口割合)が推計値で約30%を示す超高齢社会となります(総務省資料より)。ドイツは日本より遅く1960年代初めに戦後の出生数ピークを迎えましたが、2030年には60歳以上の人口が36.8%を超えることが連邦統計局の資料から予測されています。日独比較基準となる高齢化率推移で見ると、ドイツの高齢化率は日本に遅れること数年、2030年代に30%を超える見込みです(総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」国際連合”World Population Prospects:The 2012 Revision”より)。日本は2025年問題、ドイツは2030年問題が不可避です。
年齢別人口構成変化は、その国の経済・社会情勢、ひいては薬局のあり方にも大きな影響を及ぼします。超高齢社会に伴い日本もドイツも医療費政策は大転換期を迎えました。ドイツの薬剤師会にあたるドイツ薬剤師連盟(ABDA)では、この悲観的状況に対し薬局が今後どう発展し、あり続けるべきかを明確にすべく、2013年よりデータ分析やドイツ薬剤師会議での討論、2014年からは薬局とのネット討論を行いました。そして、2014年の秋、来るドイツ2030年問題に対する薬局への指針を「薬局2030年(Apotheke 2030)」というレポートにまとめ、その年のドイツ薬剤師会議で承認させました。ドイツ薬剤師会議は、毎年開かれる薬局見本市・エクスポファーマ(Expopharm)の期間中にその会場で開催されます。全国から多くの薬剤師が参加します。
*:ドイツには各連邦州に薬剤師協会と薬剤師組合があり、それらが統合したものがドイツ薬剤師連盟(Bundesvereinigung Deutscher Apothekerverbände)、略してABDAと呼んでいます。
実践にあたり7つの戦略(骨子)を掲げています。
- 新しくよりレベルの高い業務の導入
- 他の医療機関とのネットワークの構築
- 医薬品供給における安全性の確保
- 薬局への充分な報酬の確保
- 薬学・卒後教育の見直し
- 地方まで行き届いた医薬品供給の確立
- 薬剤師という束縛されない職業の継続・維持
同レポートの中に「もっと患者さんの近くへ(Näher am Patienten)」という項目があります。患者さん一人ひとりのニーズに親身に専門家意識を持って対応し、より積極的に患者さんを適切な薬物治療へ導いていくことが薬局の継続課題としています。それには薬局が患者さんから治療上での良きパートナーとして認められる必要があり、薬局の業務とスタッフの職能にいかなる時も全信頼をおいてもらわなくてはなりません。スタッフ全員がコミュニケーション能力を養い、職能を磨き、エビデンスに基づき専門家として中立な立場で情報収集し、包括的なケアを提供すべきことを説いています。
また、ABDAとドイツ人薬剤師がこだわるのは戦略7。すなわち、「薬剤師以外が薬局を開設・経営することはできない」「開設した薬剤師がその薬局にいなければならない」という国内法の維持です。この法律が崩れると外資系のチェーン店が急激に増え、国益が海外に流出するばかりか、有事に国民が必要な医薬品が行き渡らなくなる恐れがあります。大切な医薬品流通が海外業者依存では困ります。医薬品供給が第三者の利益のみに利用されたり、国家間の政治の駆け引きに使われたりすることがあってはいけないのです。薬局が業務の質を限りなく追求するためには、開設者である薬剤師が他者の利害に束縛されず、自分の自由な意志と責任と判断で仕事ができることが不可欠です。
日本でもドイツでも薬局の将来に不安を感じない薬剤師は1人もいないでしょう。しかし、大変な中にも薬剤師としての自信と誇りは失いたくないものです。患者さんの喜ぶ顔が私共、薬剤師の仕事の大切さを証明してくれています。医薬品なくして今日の医療はまず考えられません。広範囲に渡る迅速かつ充分な量の医薬品供給、加えて厳しい品質管理とたゆまない有効性の追跡で医療を支えているのが薬局と薬剤師です。