日本の薬局の将来は明るい!
本年2019年2月、約2週間の滞在で、某薬科大学の5年次生9名が当薬局へ薬学研修にみえました。在学生にして、すでに自分の将来をしっかり見据え、勉強熱心で問題意識がしっかりしたお嬢さん方でしたので、スタッフも私も脱帽、唯々感心するばかりでした。娘が1度に9人も増えたようで、私はすっかりドイツのお母さん気分でした。どの視察訪問先に行っても、明るく礼儀正しく、決して、ものおじすることがなく、今の日本の若者は素晴らしいと思いました。顧客にも町で出会う人にも、彼女たちは皆、若々しい朗らかな笑顔で挨拶をしていたので、薬局ご近所の話題になっていました。研修終了後も来局者から「日本の薬学生の方々は、もう帰国されたのですか?」と、よく尋ねられました。
ドイツ薬局研修が決定し実行となるまで、同大学とは1年以上にも渡りメールの往復がありました。計画が持ち上がったのは、2年以上も前になります。同研修を推進・担当される先生方は、打ち合わせに3度もこの片田舎の当薬局へ足を運んで下さいました。研修生渡独の際は、学長先生自ら共にお越しくださり、恐縮の至りでした。ご自身の研究や学長としての責務で大変な中、そこまでしていただかなくてもと思いました。超ご多忙にも関わらず、学生と研修受け入れ先を大切に思い、おいでくださった学長先生にどのような感謝の言葉を選べば良いのでしょう?同大学へは、2015年に特別講義の講演者として招かれ、ドイツの薬局・薬学事情をお話ししたことがあります。できるだけ多くの学生と教職員が聴講できるよう細やかな配慮をし、1講演者の私を丁重に扱ってくださった同大学には、特別な思いがあります。海外も視て、日本の薬局や薬剤師の在り方を学生に考えてほしいと願う同大学の海外研修計画に、なんとしてでも答えなくてはいけないと思いました。
実習生を受け入れ、後継者を育てるのもドイツ薬局の義務の1つです。しかし、当方、このように何人もの薬学部在学生を2週間の期間、日本よりお預かりするのは初めてです。どのような内容で、どのくらいの実務実習量にすれば良いか、全くわかりませんでした。人口約4万人の小さな地方都市で、主要空港からの距離は遠く、来ていただくだけで大変です。ドイツへ研修に来て良かったと思ってもらえるだけのことを提供できるかどうか随分悩みました。スタッフは、全力尽くして協力すると言ってくれましたが、研修生に満足していただけることができるかどうか、不安を隠せないでいました。ただ、薬学生の方々に、これだけは伝えたいと思ったのは、薬剤師の基本姿勢と全薬局が、かかりつけ薬局となれるドイツの薬局制度です。
薬剤師は、オールラウンドの科学者・研究者です。薬学は、医薬品だけを扱う学問ではなく、自然科学全般に関わり、衣食住に関わる幅広い学問です。たとえラボで仕事をしていなくても、「これは何?なぜ?」の問いを続ける限り、薬剤師は科学者であり研究者であると思います。顧客や患者さんにお渡しする製品やその情報に、なぜ・何の説明をつける・つけられるのが薬剤師です。とは言え、何でも即答できるわけではないので、勉強や調べものをする時間が必要です。それが薬局内で、しかも業務時間中に可能でないと、かかりつけはできません。規模の大小や都市・地方、病院・医院からの距離といった立地条件に関わらず、各薬局、必要な製品とその情報が集められるので、ドイツの全薬局は、かかりつけ薬局として機能します。
研修期間中、数回のセミナーでドイツの薬局事情を説明しました。高校生の娘と薬剤師の主人からは、薬剤師としてのモラルだの義務だの、説教じみたことばかり若い研修生の方々に言わないようにとクギを刺されました。しかし、薬剤師や薬局の在り方が厳しく問われる日本の現状を思うと、どうしても、薬剤師と薬局は何をすべきか、という話に傾きがちでした。乾いたセミナーテーマもあった中、熱心に話を聴いてくださる研修生の皆さんに、響いていることがある・伝わっていることがあると、ずっしり手応えを感じる時があり、とても嬉しく思いました。
実務面では、カプセル、クリーム、ハーブティーなどの調合、ピッキングマシーンと連動したレセコンでの処方箋業務、医院や介護施設への医薬品の配達といった通常業務を体験してもらいました。自ら調合したハーブティーを来局者や薬局前の広場で行き交う町の人々に試飲してもらう機会をつくりました。英語やドイツ語で積極的に地域の方々に話しかけ交流を図る研修生の姿は微笑ましく、たくましくもありました。チュービンゲン大学の薬学部とシュトゥットガルト最大の病院薬局を訪問し、日本とはまた違った雰囲気も感じてもらいました。
日本での実務実習が終わり、就職活動が始まる合間をぬっての、このドイツ薬局研修でした。帰国も間近になった日、3グループに分かれ、ドイツ人スタッフと私を前に、英語とドイツ語を駆使して研修に関するプレゼンテーションを行ってくれました。ハードな研修スケジュールの中、発表内容をまとめ上げたのは立派です。帰国した次の日は、テストもあると言っていました。なんともタフなお嬢さん方です。ドイツで体験したことをもとに、日本の薬局と薬剤師の将来を変えていきたいと言ってくれた時は、なんと嬉しく頼もしいことだろうと思いました。日本の薬局の将来は明るいです。次世代を担う若い後継者が、薬剤師が働きやすく、その職能を存分に発揮できる業務環境を作りあげていってほしいと願います。
私学の薬科大学に、お子さんを6年も通学させるご両親の経済負担は大きいです。ドイツの薬局を視るのも良いだろうと、大学のプロジェクトと研修先である当薬局に信頼を寄せ、渡航費を工面し、大切なお子さんを海外へお送りくださったご両親に、心より感謝いたします。