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ドイツ薬局便り-10

ドイツ薬局便り
10
著者
アッセンハイマー慶子
● ドイツ薬局便り-10
熊本地震に寄せて

 

2016.05.19

 

まだまだ余震の続く今回の大地震災害。大切な家族や友人・知人、住居を失った方々の悲しみはいかばかりでしょう。被災された薬局、薬剤師の皆様には心からお見舞い申し上げます。

 

被害を免れた薬局も、インフラ構造のダメージから、通常の営業ができないところもあり、

医療現場は当初どんなに混乱したことでしょう。なんとか営業可能の薬局へは、メーカーや卸会社から充分な量の医薬品が配送できているでしょうか?医薬品なくして医療は成り立ちません。治療にあたる医師や看護師の方々も医療品在庫量が気になって仕方がないはずです。業務のできる薬局に患者さんが集中し、震災で医薬品の必要量が増える中、現地の薬剤師さんは、不安な気持ちと戦い、超多忙業務に追われる毎日だと思います。無理がたたり、ご自身の体調を崩されなければよいがと案じます。

 

毎日、震災に関するニュースを見ながら、同じような災害が起こった場合、ドイツの薬局は充分に機能するだろうかと考えずにはいられません。ドイツ薬局営業法(Apothekenbetriebsordnung)15条では、薬局は、少なくとも1週間分の平均必要医薬品量を在庫として持つことが定められています。ドイツ薬局1店あたりの平均年度末在庫額(OTC・処方用医薬品以外の製品も含む)は約10万ユーロで、この額は、1薬局あたりの平均年間売上額の数パーセントという報告があります。概算で1か月分弱の在庫額。薬局の立地にもよりますが、このうち約8割は、医薬品在庫と考えてよいと思います。カバー率の良い薬局で80%以上と言われていますが、配送が途絶えれば残り20%の需要は、注文によるカバーができません。有事の際、この在庫量と品揃えで本当に対応できるのでしょうか?同15条では、在庫量のみならず、緊急用に次の医薬品・医療用品を常備することも定めています。

 

1.  解熱鎮痛薬

2.  オピオイド鎮痛薬(経口用、注射剤、即効性、徐放性)

3.  糖質コルチコイド注射剤

4.  抗ヒスタミン注射剤

5.  吸入用ステロイド剤

6.  消泡剤

7.  粉末薬用活性炭

8.  破傷風予防接種

9.  破傷風免疫グロブリン

10. エピネフリン注射剤

11. 点滴用生理食塩水

12. 包帯・ガーゼ類、ディスポーザブル注射器・注射針、カテーテル、点滴用接続用具、

血糖値測定に必要な製品

 

ドイツは、先の2つの世界大戦で市民も巻き込んだ多くの犠牲者を出しました。現在、隣国9か国に接するドイツは、有事や物資・医療品不足への危機感が非常に強い国です。地続きなので、ヨーロッパ内で起こる事変は、対岸の火事ではありません。地震は少ないのですが、大きな河川の氾濫による大洪水、山岳地帯での大雪・雪崩による大災害は起こります。どこの国も保有する原発のいくつかを国境付近に設置しているので、事故が起これば、たちまち隣国が大被害をこうむります。医薬品が不足する事態が起これば、助かるべき人命が助からないという危機感は、常にドイツ人薬剤師にあります。

 

24時間医薬品供給体制を敷くドイツでは、各連邦州薬剤師組合(Apothekerkammer)の監修のもと、地区ごとの夜勤輪番表が作成されています。どの薬局にも輪番制で休日営業・夜勤を行う義務があります。解熱鎮痛剤、抗菌剤、鎮咳薬、降圧剤や糖尿病薬などは多めに在庫を置いており、医薬品によっては、3カ月から半年分くらいの量を置いておくことも少なくありません。備蓄機能も備えるべき薬局。休日営業・夜勤や非常時に備え、在庫を整えておくのが薬局長の大事な仕事の1つです。日曜祭日は完全休業日であり、国内法によって1部の業種を除き、一般商店は営業してはいけないことになっています。そのような中、夜昼なく、休日なしで医薬品を供給する薬局は、医薬品だけでなく安心感をも国民へ届けています。ドイツの薬局が「いきつけ薬局」として頼られるゆえんの1つです。

 

豊かで平和でモラルが高く、ゆえに医療保険制度の整った日本では、どこへ行っても医薬品が入手できないということは考えられません。しかし、想定外の災害で、必要とされている場所へ患者さんへ、届けたくても充分な医薬品が届かないことは起こり得ます。備蓄にはコストがかかります。どの薬局も在庫量は最小限に抑えたい。でも、いつどこで起こるかわからない次の災害のため、経営に無理のない範囲で、各薬局が在庫を多めにしておくことは大切でしょう。薬局の災害対策に関しては、いくつかのレポートが出ていますが、災害によって必要とされる医薬品の種類も量も違ってきます。より良い医薬品準備態勢には、今、被災地で懸命に医薬品供給と避難所の衛生管理に尽くされている薬剤師さんの経験情報が必要です。現地での復旧が進み、1日も早く平常が戻ることをお祈りし、被災地における薬剤師さんの経験と情報が、次の有事に生かせることを願います。

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