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ドイツ薬局便り-15

ドイツ薬局便り
15
著者
アッセンハイマー慶子
● ドイツ薬局便り-15
外国語習得は難しい

 

2017.04.05

 

日本のテレビ番組を見ていると、日本で生まれ育っていなくとも、ほとんど完璧にアクセントもなく日本語を話している外国人の方がいらして、羨ましいなと思います。

ドイツは、隣国と地続きで国境が多く、また、戦後外国人労働者とその家族を寛容に受け入れてきた経緯から、人口の約10%が外国人、国籍取得者を含めると20%くらいといわれています。処方箋に記載されているお名前や会話から、患者さんの出身国がわかることがあります。ドイツ語を不自由なく話しても、母国語の特徴あるメロディーが聞き取れ、母国名が想像できることもあります。ドイツ人は外国人がつたないドイツ語を話すのにも寛容です。言いたい内容がきちんと伝われば、日常会話のなかで、ドイツ語の発音や文法の誤りを細かく指摘されることはあまりありません。

 

私が日本人と知って、当薬局へいらっしゃると日本語で挨拶をしてくださる患者さんがいます。ある女性の方は、日本の自然がテーマのドキュメンタリー番組を視て以来、すっかり日本ファンになってしまいました。顧客であるこのおばさま、「さようなら」は覚えたけれど、なかなか「有り難う」が覚えられませんでした。そこで、アリゲーター(ドイツ語ではアリガートァ:Aligator)に似た「アリガトウ」ですよと申し上げたら、「次は絶対大丈夫」と、おっしゃって薬局を後にしました。さて、次回。おばさま曰く「それではサヨナ~ラ~、レプティール(爬虫類:Reptil)」。こちらが、きょとんとしていると、「あら、また違ったかしら?」と、おばさま。爬虫類であるアリゲーターに似た言葉と思ったのだけれど、肝心の「アリガトウ」ではなく爬虫類の方を覚えてしまったようです。アリゲーターに似た「アリガトウ」ですよと、再度申し上げたら、次の来訪では「クロコディール、サヨナ~ラ~」。なんと、アリゲーターからワニになってしまいました。ジョーダンか本気か当方判断がつかず、どうしたものかと考えているうちに、おばさまは優しく笑ってお帰りになり、訂正しそびれてしまいました。以来、おばさまのお帰りのご挨拶は、「クロコディール、サヨナ~ラ~」です。

 

外国語を一定の年齢になって習う日本人にとって、難しいのは「R」の「L」聞き分けと言われています。日本人に限らず、母国語にない発音は聞き取りが難しいようです。薬局で、RとLの混じった知らない製品名を言われると、さあ大変。電話ではもっと聞き取りが難しくなります。その際は、「リヒャルト(Richard)のRですか、それとも、ルートヴィヒ(Ludwig)のLですか?」と確認します。患者さんも目の前の薬局スタッフが東洋人だと、状況を察して、丁寧に答えてくださいます。日本でもお馴染み、ドイツ民謡のローレライ。こちらへ来て、正しく読み書きできるまでに、ずいぶん時間がかかりました。どのラ行音をRかLにするかで、2の3乗、8通りも書き方があるのですから。家族の会話で、私がRとLを間違えると、子供たちは大笑いです。RとLを使い間違えることで、時々、意味が変わってしまい、おかしな文になってしまうからです。でも、日本人ママにも反撃チャンスはあります。ドイツ人はS音とZ音が聞き分けにくく、冒頭がSで書かれた単語を[s]ではなく[z]と濁音で読むからです。日本の名花「サクラ」がSakuraと書かれていると「ザクーラ」と読んでしまいます。サクラはザクラではないといってもその違いが聞き取れなく、「サ」と「ザ」が同じに聞こえるらしいのです。また、どこかにアクセントをつけないと、読みにくいようです。

 

シリア情勢が悪化し、ドイツへ多くのシリア難民が滞在しています。薬局へもシリア人の患者さんがいらっしゃいますが、短期間で会話ができる方が多いのには驚きです。服薬指導の助けになるツールを置いて、処方薬が正確に使用してもらえる努力をしています。日本からもってきた「翻やくん」も、外国からのお客様へのOTC薬相談販売時に大助かりです。

 

長女は今、語学勉強に日本へ行っています。

母親のドイツ語習得苦労をわかってくれるといいなぁと期待しています。

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