メルマガ新着

ドイツ薬局便り-23

ドイツ薬局便り
23
著者
アッセンハイマー慶子
● ドイツ薬局だより-23
日本の医薬分業

 

2019.01.25

 

2019年がスタートしました。日本コミュニティファーマシー協会理事長、吉岡ゆうこの年頭あいさつにありますように、当協会は、早いもので創立6年目を迎えました。私共の活動を応援してくださっている企業や会員の皆様、メルマガ読者の方々には、心より感謝の意を表します。本年も皆様にとって良き年となりますよう願っております。

皆様の努力や実績をよそに、日本の新聞・雑誌では、薬局の機能や薬剤師の職能について厳しい記事が出ることがあります。国民医療をしっかり支える多くの薬局や、勤勉で仕事が速く、きめ細やかな心遣いのできる日本の薬剤師に、記者や有識者の方々は言いたい放題です。薬局と薬剤師をいったい何だと思っていらっしゃるのでしょう?憤りを隠せません。

「薬剤師は何もやっていない。」というような、ご意見もあるようですが、それは誤りです。現在、日本の薬剤師の業務環境は、必ずしも職能を100%活かせる状況にはないと思います。何もやっていないのではなく、「制度上やりにくい、やりたくてもできる状況にない。」が、あたっていると思います。それを見ないで、機能だの職能だの論議されても始まりません。

そして、日本の薬事関係記事では「医薬分業」という言葉をよく見かけるようになった気がします。なかでも、「医薬分業のメリットを患者さんが感じていない…」というような内容の記事を読んだときは、驚きました。なぜなら、分業もなにも、処方箋が院外に出るか出ないかが主な焦点となる日本の医薬分業は、本来の意味での医薬分業とは異なっているからです。どうも日独で、この言葉のとらえ方に違いがあるようです。

医院・病院で長時間、診察待ちをした上、薬局まで移動し、処方薬を受け取るために、そこでまた長時間待たされる...日本の患者さんで薬局へ行くメリットを感じてないと思う方がいるとすれば、それは、薬局や薬剤師の責任ではなく、患者さんが長時間待たなければならない制度に原因があると思います。あいまいな医薬分業が続き、なろうにも全薬局が、かかりつけ薬局になれない複雑な医療報酬制度と医薬品流通体制や、さらには薬価政策に問題があると思います。箱だし調剤のドイツと違い、計数調剤やお薬手帳管理に時間がかかるのも、健康サポートやかかりつけ業務に時間を割きにくい原因です。

医薬分業とは、医師と薬剤師に「非営利で医療を行うべし」という、双方に医療人としての究極のモラルを問う制度です。医師だけでも薬剤師だけでも医療が成り立たたず、双方が独立してその職務を果たすことで、初めて医療ができるようにしたのが、この制度です。

医薬分業を欧州で初めて法律化したのは、ドイツ皇帝・シチリア王であったフリードリヒ(フリードリッヒと書かれることもあります)2世で、1241年のことになります。その後、同法律は医療の基本法として欧州に広がりました。ドイツ現法下の医薬分業の内容として、調剤権は獣医の例外を除き医師にはありません。ドイツの医院内に調剤部はありませんし、病院薬局は院内処方だけしか扱えないので、外来患者の処方箋は全て院外に出ます。大病院内にある調剤部の待合室で、多くの患者さんが処方薬受け取りの順番を待つといった光景は、ドイツにはありません。

また、薬局の開設は薬剤師に限り、管理薬剤師を置いたとしても他資格者が薬局を開設・経営することは許可されていません。開設者である薬剤師にフルタイムで自局の経営にあたることを義務付けています。原則的に1薬剤師1薬局の開設しかできませんでしたが、2004年の規制緩和により、3店舗までの支店経営が認められ、1薬剤師が4店まで開設できることになりました。各支店には、管理薬剤師を置き、本店の開設者薬剤師が定期的に支店へ監督に行くことが義務付けられています。ドイツでは、医療費節減政策が続き、売り上げを大きく伸ばして利益を確保することが難しくなる中、経営の合理化を図る目的で、支店を持つ薬局が増えています。

ドイツの医師が業として医薬品を患者に渡せないのは(例外がメーカーから数量を限定して提供されるサンプル品)、たとえ意図的ではないにせよ、自身の利益につながる投薬の可能性を排除したものです。薬剤師が医師の処方内容・量の適正さなどのチェックを一手に引き受け、患者さんに必要な医薬品を供給することにより、医師は、より多くの時間を診断と治療に使うことができます。一方、末端使用者への医療用並びにOTC医薬品の専売権を持つことになる薬局は、医師の処方箋なしに医療用医薬品を患者さんに渡すことはできません。また、公定価格である薬価により、医療用医薬品の販売で、自由に利幅を変えることが禁止されています。もし薬価が自由価格で、需要と供給の関係から価格が乱高下すれば、メーカーは医薬品を製造しにくくなり、卸や薬局は在庫を置きたがらず、有事の際に医薬品供給不足となる状況は避けられません。その際、薬価が跳ね上がり、患者さんの負担が急に大きくなったり、患者さんの足元を見て、薬剤師が暴利をむさぼったりしないように薬価が定められているのです。ドイツの薬価は、透明性があり、医療用医薬品の場合、メーカーが出し値を決めた時点で、公定算定方式により、卸の出し値(薬局購入価格)と保険請求価格である薬局販売価格が決まります。薬価は、医薬品の安定・安全供給のためにあります。

日本では、薬局による24時間医薬品供給体制の導入が叫ばれています。各薬局、夜勤や週末勤務ができる医薬品の品揃えと量を確保してくださいということになります。それには、規模の大小や立地条件にかかわらず、どの診療科からでも処方箋を受け付けられるよう、必要な医薬品とその学術情報が標準レベル以上に、そして、それらが短時間で各薬局に集まる業務環境を整えないといけません。ドイツでは、物流面で医薬品総合卸が、学術面で、薬剤師会にあたるABDAの傘下部門が学術データベースを作り、全薬局のレセコンに導入させて、薬局の業務をしっかり支えています。各薬局、輪番制で所属地区の夜勤・週末勤務を受け持っています。

医薬品なくして医療は成り立たず、薬局も機能しません。薬局と薬剤師の使命は、まず、医薬品の安全・安定供給です。機能や職能だけではなく、どうすれば根本となる各薬局への物流が充実するかについても、もっと議論がなされて良いのではないでしょうか?医薬品総合卸が、さらに在庫内容・量を充実させ、提携薬局へ頻繁に配送する経費を捻出できる薬価構造が必要です。どの薬局も、必要な医薬品や製品を1品1個より注文でき、提携卸から短時間で揃えられる。ゆえに1薬局で何でも揃うし、薬剤師がいるから薬局ですべきことは何でもできる。監査やピッキング作業時間の短縮できる、箱だし調剤の導入も検討できないでしょうか?そうなれば、患者さんは、かかりつけ薬局を1つ、自宅の近くに決めやすくなり、待ち時間も少なくなります。患者さんは、医薬分業のメリットを感じられるようになると思います。

メルマガ新着

TOPIC月別アーカイブ