ドイツ人と桜
ドイツで暮らし始めてもう29年、いつのまにかドイツで過ごした時間のほうが長くなってしまいました。これまでホームシックにはかかりませんでしたが、日本が桜の季節になると、桜の花が恋しくなります。
日本人薬剤師が桜の木と聞いて思い出すのは「桜皮」や「ブロチン」でしょうか。やさしい桜のイメージには似合わないゴッツイ薬品名ですが、名の由来は何でしょう?(注釈吉岡:第一三共株式会社のインタビューフォームでは、名称の由来、不明となっています。気管支のbronchialからはきているのでしょうね。)。
日本人にとって桜の花は特別なものですが、ドイツでは観賞用の桜はあまりなじみがありません。八重咲きで色の鮮やかな「カンザン」は、街路樹として好まれていますが、この木をアーモンドの木と思っている人が結構います。はらりと散り際のよい「ソメイヨシノ」とはちがい、花が枯れ始めて茶色になっても、しっかり枝にしがみついています。桜と聞いて、まずドイツ人が思い出すのは6月に出回るサクランボです。ドイツの子供達が好きなお菓子やジュースのフレーバーはたいていサクランボです。薬局で扱うのど飴や薬用トローチ錠もサクランボ味のものがあります。
当薬局前の広場には、市が植樹した「アマノガワ」という品種の桜の木が3本あります。花が咲くのは4月下旬、薬局におみえになる患者さんに「故郷がなつかしくて、ご自分で植えられたのですか?」と、時々聞かれ、苦笑してしまいます。ここから、車で約20分のメッシンゲン市では、市有の山にサクランボの生る桜がたくさん植えられています。使用料を市に支払うと、個人で木を1年間借りることができ、その木に生ったサクランボをいくらでも収穫していいことになっています。「花が咲く時期はとってもきれいですよ、一度ご覧になるといいですよ。」と、患者さんに言われ、日本のように、山全体が濃淡のピンクに染まる光景を想像して見に行ったことがあります。どこも満開の桜の花でいっぱいでしたが、白い花でちょっと寂しい思いをしました。
目黒川の桜