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ドイツ薬局便り-40

ドイツ薬局便り
40
著者
アッセンハイマー慶子

フラッシュバック、チェルノブイリ原発事故

2022.2.28

1986年4月26日に旧ソ連、現在ウクライナのチェルノブイリで原発事故が起こりました。放出された放射性物質は気流に乗り北半球に拡散し、事故から数日後、日本においても事故原発由来の放射性物質が観測されたと記録にあります。ドイツでは、その年に収穫された野菜や果物を食することを控えた人もいたそうです。秋にはキノコ狩りが盛んになりますが、当時バイエルン州の森で採取されたキノコから許容量を超える放射性物質が検出され、大変な騒ぎになりました。ちょうど私がドイツへ渡った後です。

地図を見ると、ウクライナの首都キエフは、ベルリンから東へ直線距離で約1500㎞です。ウクライナ国境までなら直線距離で約800㎞と、ドイツから遠い国とは決して言えません。しかも地続きです。

ロシアがウクライナに侵攻し、両国の国境近くにあるチェルノブイリを占拠したとのニュースが流れ、戦況がエスカレートしなければよいがと多くの人が心配しています。元原発施設が交戦により被害にあったとの情報は出ていませんが、この町の名前を再び聞いて26年前の原発事故がフラッシュバックしたのかもしれません。薬局によっては最悪の状況を想定し、備蓄を開始したのだと思います。医薬品卸では、ヨウ化カリウムの錠剤が完売状態です。欧州薬局方ヨウ化カリウムの原末も2月末現在、完売となっています。完成品がなくても成分原末が入手できれば、必要に応じてラボの精密秤で分量し、分包することができるからです。2011年3月、福島で原発事故が起きた時もドイツで同じことが起こりました。

ヨウ化カリウム錠は、放射性ヨウ素による暴露の危険が近づいている場合や暴露直後、甲状腺を被ばくから守る目的で使用します。甲状腺ブロックと呼ばれている用法です。ドイツで入手できるものは、隣国オーストリアの製薬企業が製造・販売している20錠入り包装箱だけで、OTC医薬品です。他社は同じ医薬品を作っていません。1錠あたり65mgのヨウ化カリウム(ヨウ素に換算して50mg)を含有しています。年齢により服用量が異なるので、1錠を4分割できるように割錠溝が入っています。

安定ヨウ素剤投与による甲状腺ブロックに関しては、WHOが出したガイドラインがあります。長崎大学が日本語に翻訳して下記のリンク先で閲覧できるようになっています。
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/259510/9789241550185-jpn.pdf;sequence=5

日本もドイツも第2次大戦後、街が再び戦火に包まれることはありませんでした。欧州内では、同大戦後も内戦が起こったり、隣国と戦争を開始したりした国々があります。今も武器を手にして母国のために戦わなければいけない人がいることは、戦後生まれで日本人の私にとっては、非常に想像し難いことです。より健康な生活を送るため、生活の質を上げるために医薬品が使用されることがあっても、戦争のために多くの医薬品が必要になることだけは決して起こってほしくないと願っています。

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