乳児・小児用の解熱鎮痛剤が足りない
日本ではジェネリックメーカーの不祥事により供給体制が不安定となり、重要な医療用医薬品不足が深刻です。ドイツでも多くの医療用医薬品や解熱鎮痛剤、咳止めなどが現在供給不可となっています。薬局を開設して今年で25年。これほど深刻な供給不足を経験したのは初めてです。
これまでも品質問題や一時的な成分原末不足などの理由で供給が止まる製品が出ていましたが、長期化することは稀でした。また、他社の製品に切り替えるなどして、薬局では急場をしのげていました。しかし、品薄になると長期で供給がストップする製品が増えてきました。ここ数年そういった傾向が続き、今年になって状況がさらに悪化しています。
関連記事を読むと、様々な理由が挙げられています。
製造コスト削減のため、成分原末の生産・入手は海外依存になっています。アジアで製造されている場合が多く、コロナ禍中、生産や輸送が需要に追いついていないようです。物価や人件費は年々上がります。2022年2月に始まったウクライナ戦争で、燃料や電力料金も高騰しています。このようなコストの上昇で、法定疾病保険が償還する価格内では、これ以上製造できない製品があるようです。プライス・モラトリアムという政策で、メーカーは医療用医薬品の価格を下げることはできても、上げることができません。品薄だった製品が、やっと入荷できるとなると、医薬品卸や薬局が多めに購入しストックするのも、メーカーで製品がより早く完売してしまう理由の1つです。1製品が完売になると、入荷可能な代替品を探し多めに仕入れます。通常、薬局では、医療用医薬品なら1カ月分、多くて3カ月分を購入しますが、次は、いつ入荷するかわからないとなると、さらに多めに発注をかけることになります。
かぜ薬や花粉症治療薬など、シーズン中、多く必要とされるOTC医薬品は、シーズンが始まる約1カ月前に注文量が1度にまとめて薬局へ入荷します。大手メーカーはシーズンが終わるとすぐに来シーズンの注文を取ります。薬局は今シーズンと過去2~3年の需要量(販売パック数)を見て注文量を決めます。必要最低限量を1度にできるだけ多く、しかも計画的に生産する目的です。シーズン中の需要が例年よりも急増するとメーカーは計画外に製造するのが大変になります。非常に綿密な生産計画を立てるので、急な増産や計画外の特別製造を生産ラインに組み込むのが難しいようです。
新型コロナ感染に加え、ドイツではカゼやRSウイルスによる感染症が流行っています。OTC医薬品の需要が増えて、多くの薬局では3月末まで足りるはずの在庫がなくなっています。12月末現在、医薬品卸やメーカーに注文できるかぜ薬、咳止め、点鼻薬は、ほとんどありません。抗菌剤の需要も増え、注文できる抗菌剤が限られています。
乳児・小児用の解熱鎮痛剤である座薬とシロップもドイツ全土でほぼ完売状態です。夏頃から入荷が非常に稀になっているので、各薬局、ある在庫で持ちこたえるしかなかったのですが、ほとんどの薬局で在庫が底をついてしまいました。
この事態を重く見、ドイツ薬剤師連盟は法定疾病保険や医師会と話し合い、薬局で調合するアセトアミノフェン4%もしくはイブプロフェン4%含有シロップを保険償還可能になるよう交渉しました。調合後の有効期限がメーカー製品より短いので、大量に作りおきができませんが、急患用にOTC医薬品としても販売することができます。当薬局では必要に応じ、1ロット5本で調合し、販売状況を見ながら作っています。成分原末は医薬品卸から入手し、薬局のラボで調合しています。ここで活躍するのがPTA (薬学技術アシスタント)です。成分原末、その他必要な原料の入手、確認試験、調合、プロトコールの作成は、薬剤師の監督下、全てPTAが行います。
ドイツ薬剤師連盟の傘下にある1機関は、NRF(Neue Rezeptur Formularium)という薬局で調合・製造可能な医薬品のレシピを編み出し、改良・改定をする業務を行っています。薬局で調合する医薬品の多くは、このNRFレシピに従っています。このように緊急でアセトアミノフェンのシロップを薬局で調製するときも、NRFレシピを使用します。これにより、どの薬局も品質を保証し、同じ規格の調合品を患者さんに提供することができます。
2022年は、薬局長もスタッフも、くたくたになりながら限界まで働いたドイツの薬局でした。来年は事態が改善されるでしょうか?薬局関連記事は見通しの暗いものばかりで意気消沈しそうですが、匙を投げないのが薬局です。地域住民の健康と安全のため、2023年も他の薬局と共に頑張りたいと思います。
読者の皆様には2023年が良き年でありますようお祈りしております。