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ドイツ薬局便り-49(2024/10/1)

ドイツ薬局便り
49
著者
アッセンハイマー慶子

ドイツの箱出し調剤
2024/10/1

今回は、ドイツの箱出し調剤についてお伝えいたします。

【処方箋】

処方箋は紙媒体でも電子処方箋でも原則有効期間は処方日の次の日から数えて28日です(処方日も入れると29日)。処方箋には幾つか種類があり、麻薬処方箋は、処方日を含めて8日間、サリドマイドや、その類似医薬品の処方に使われるT処方箋は、処方日を含めて7日間有効です。紙媒体の処方箋には3剤まで処方できます。1度に4剤以上の処方を受ける患者さんは、複数枚の処方箋を受け取ることになります。18歳以上の成人には、原則、要処方箋医薬品しか処方されません。処方箋がなくても購入できるOTC医薬品や量販店でも取り扱いが可能な自由販売薬、Medizinproduktと呼ばれる医薬部外品のような製品は、1部の例外と未成年者への処方を除き保険償還されません。患者さんの疾患に直接必要な医薬品のみが処方されるので、通常処方品目数は多くありません。

ドイツでは2024年1月より電子処方箋制度が本格的にスタートしました。保険医院では、電子処方箋発行に必要な機器を設置する義務が生じ、今年に入って電子処方箋の数が急速に増加しました。電子処方箋は、紙処方箋と違い、処方内容が1剤ずつ独立していいます。3剤処方されれば、3枚処方箋がある調剤になります。そのため、1薬局で全て揃わない場合、そこに在庫がない医薬品を他の薬局で調剤してもらうことが可能になりました。紙媒体に2~3剤処方されている場合には、そのうちの1部を他の薬局で調剤してもらうことができません。

【薬局での箱出し調剤】

患者さんが処方箋を薬局へ持って行き、調剤をお願いすると、添付文書の入った箱ごと処方医薬品を渡されます。この添付文書は患者さん向けで、薬事関係法によりメーカーが記載すべき多数の項目が定められています。添付文書は非常に長いものが多く、複雑なたたみ方になっており、1度開くと元どおりにたたむのが大変です。メーカーは、患者さん用とは別に医家向け添付文書を作成する義務があります。各薬局のレセコンに搭載された学術データバンク(ABDA Datenbank)には、患者さん向け添付文書だけでなく、医家向け添付文書もPDF版で入っています。医院の希望やスタッフの勉強のために、いつでもダウンロードして使用できるようになっています。

 

【医師の処方と箱サイズ】

医師の処方は通常、箱単位です。それぞれの製品には、処方できる箱のサイズが大中小3種類あり、小さいものからN1、N2、N3とサイズ記号がついています。N1は短期もしくは頓服用、N2は中期投与用、N3は長期(通常3か月)用となっています【写真1】。                                       

【写真1】 ラミプリル含有錠の後発品パッケージの1つ
 
上からN3(100錠入り)、N2(50錠入り)、N1(20錠入り)
N1サイズの箱には、1錠や1包だけ入っている場合もあります。1回の服用量により、N2サイズでも少量で10~20錠入りの場合もあれば、100錠を超える製品もあります。この他、ジャンボパックと呼ばれるN3より大きな箱がありますが【写真2】、処方されても保険償還されません。
 
 
                       
 
【写真2】 緩下剤マクロゴールの箱
 
上から時計回りにジャンボパック(100包入り)、N2(20包入り)、
 
N1(10包入り)、N3(50包入り)
医師が医薬品を処方する際、製品(成分)名、剤形あたりの成分量、剤形のあとに箱サイズではなく、数量を記載することも可能です。医師の処方数量に該当する箱サイズが製造されていない場合は、その数量より少なく、かつ1番近い数量の箱を調剤することになっています。
 
 
 

【開封禁止】

薬局が箱を開封し必要量を取り出して患者さんに渡すことは法律で禁止されています。これは、安全上と価格上の理由からです。例外が麻薬中毒患者さんへの代替薬処方で、薬局は処方された量だけを開封調剤できます。例えば、ブプレノルフィン8mg錠が1日1回1錠3日分処方されれば、在庫にある箱の中から3錠取り出し、薬袋に入れて患者さんにお渡しします。

開封してはいけない安全上の理由ですが、箱は医薬品を見分けやすくし、かつ、中身を保護し損傷や紛失を防ぐ役目も果たしているからです。また、水剤を小分けにするため小瓶に詰め替えすると、使用期限が箱に印刷されたものより短くなることもあり、患者さん宅と薬局での保管が難しくなります。患者さんの手元に渡った後に開封するならば、残りの使用期限は明確です。小児用の抗菌剤シロップや咳止めなども、それぞれ箱単位で渡し、必要であれば患者さんにお渡しする際に調整します。通常2剤以上を混合調整することはありません。

EU内では、SecurPharmという医薬品のトレーサビリティーシステムを取り入れ、偽造医薬品の流通を阻止しています。医薬品の箱には、その箱にだけ与えられた同定番号がデータマトリックスに組み込まれ印刷されています。薬局がこれをスキャンすれば、卸やメーカーから正しいルートで届いたものかがわかり、いつ薬局に入荷していつ患者さんにお渡ししたか追跡できます。開封すると追跡が難しくなります。

開封してはいけない価格上の理由ですが、通常、大きいサイズの方が単位あたりの価格が低くなります。薬局がこのことを利用して大箱の中身を小売りにし、差益を出すことを禁止しているからです。同じ医薬品なら、どの薬局も公平に利益が出せることを重視しています。患者さんが必要とする医薬品を薬局は販売し、その際、より多くの利益を出すことを考えてはならないということになっています。ドイツの病院薬局は一般薬局とは違い、医薬品総合卸を通さず直接メーカーから大量に品物を仕入れることが多いのですが、その際、メーカーと価格交渉をすることが認められています。一般薬局より大きな割引があると言われています。このため、病院薬局では外来患者の処方箋が扱えません。病院薬局と一般薬局では、同じ医薬品であっても利益に大きな差がでてしまうからです。病院薬局を持たない病院は、市中の1薬局と契約を結び、診療に必要な医薬品をその薬局から購入します。その薬局は、病院に販売する医薬品に限ってメーカーと価格交渉ができます。薬局は、こうして、より安価に購入した病院用医薬品を一般調剤用とは別に保管する義務があり、これを患者さんに販売してはいけないことになっています。

 

【箱出し調剤による残薬の問題】

患者さんのところに開封後の残薬があると、新しい処方箋といっしょに持ってこられることがあります。薬局では使用期限や内容を確認して、処方量よりも少なく調剤することが可能です。残薬が利用できれば、患者さんの自己負担費が減り、保険薬剤費の節減にもなります。

ところが、10錠入りの抗菌剤が処方され、1日3回、1回1錠、3日間と服用指示があれば、1錠残ってしまいます。しかし、このムダは、医師も薬局も患者さんも全く気に留めていません。日本ですと、「患者さんがうっかり10錠目を服用して、何か起こったら誰が責任をとるのですか?残った医薬品を患者さんが勝手に他者に渡して何かあったらどうするのですか?」というような質問が出そうです。医師が適正な医薬品を処方し、薬局も適正な服薬指導をしたのなら、ドイツでは、多くても少なくても指示どおり使用しなかった、勝手に他者に渡した患者さんが悪いことになります。

【箱出し調剤のメリット】

箱出し調剤のメリットは、何といっても調剤にかかる時間が短いことです。また、開封後の残りが薬局で不良在庫になることもありません。未開封の不動在庫は、使用期限が1年以上なら医薬品総合卸に返品できます。箱単位なので、返品作業も簡単です。

ドイツでは、依然として重要医薬品の品薄状況が続いています。医薬品の安定供給を継続するため、各薬局は、これまでにない時間と専門知識を在庫調整に費やしています。箱出しにより、調剤にかける時間が少なくてよいのは、業務が煩雑になるばかりのドイツ薬局にとって大変有難いことです。

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