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ドイツPTA便り-27

ドイツPTA便り
27
著者
アリーン・フォーゲル
● ドイツPTA便り-27
ドイツPTA(薬学技術アシスタント)とその歴史

 

2020.08.06

 

薬局就業中のPTAは、2019年現在、ドイツで68277人(実務実習生を含む。女性の割は96.9%)。全国で働くPTAの90%が薬局勤務で、薬局勤務者の中で、1番大きな職業グループです(ドイツ薬局統計 Die Apotheke:Zahlen・Daten・Fakten 2020より。同2019年、薬局勤務薬剤師数は、52876人、女性の割合は73.1%)。今日、PTAなくして、どの薬局も機能しません。
 
PTAとはPharmazeutisch-Technische Assistentin(女性名詞)もしくは Pharmazeutisch-Technischer Asseistent(男性名詞。ドイツ語では女性か男性かで語尾が異なります)の略です。欧米で薬局(もしくは薬学)テクニシャンと呼ばれている資格です。2018年、PTAは誕生50年を迎えました。
 
このPTAという国家資格をドイツで取得するには、最短Mittlere Reifeの学歴(日本で言えば高等学校1年終了の学歴)に加え、2年半の専門課程を修了しないといけません。この2年半のうち、2年間は専門学校での養成、半年は薬局での実務実習期間です。養成学校でのカリキュラムはハードで、午前中は講義、午後はラボでの実習です。資格取得の国家試験は各連邦州で実施されます。PTAの国家資格があれば、その専門知識と実務能力から、薬局だけでなく、製薬企業、食品・化粧品メーカー、官庁・役場、教育機関など、幅広い分野で働くことができます。引く手あまたの職種です。
 
さて、どのようにしてこの職業が生まれたのでしょうか?今回は、そのお話をいたします。
 
薬局の業務を支え、薬剤師が学術・法規関係の仕事に、より時間がかけられるよう、薬剤師に次ぐ新しい資格を導入してはどうかという話が持ち上がったのは、1954年のドイツ薬剤師会議でした。当時の様子を記述した資料を読むと、喧々諤々の討議の末、却下されたそうです。このドイツ薬剤師会議は毎年開催され、常任理事薬剤師の他、参加希望の薬剤師が出席できます。同会議では、薬局と薬学スタッフの維持、職能の向上など、薬局を未来に存続させる重要事項が討議されます。
 
その後何度も同会議で議題にあがりましたが、賛否両論に分かれ、なかなか結論がでませんでした。しかし、医療制度の変化や薬剤師専門教育改革の必要性もあって、PTAと言う資格が必須となってきました。1960年代、薬剤師になるには、まず薬局で2年の実務実習を修了した後、大学に入り3年間の専門課程教育を受けていました。1970年初め、薬学生は7学期(3年半、現在は8学期4年制)大学教育の後、実務実習を1年間行う法律になりまし。この法律改正後の薬局では、薬学実習生の数が減り、重大な人手不足が生じることが予想され、PTA誕生に拍車をかけました。長い道のりの末、1968年3月に国会でPTA法が成立し、PTAと言う職業が生まれました。
 
しかし、PTAは初めから、どこでも手放しで喜んで迎え入れられたわけではなかったようです。PTAに仕事をうばわれるのではないかと思う勤務薬剤師や現在のPTAに近い資格を持っていたスタッフが、懐疑心をもって同僚のPTAを見ていたようです。
 
半世紀という時が流れる間、PTAはめざましい活躍をし、活動範囲はどんどん幅広くなっていきました。当初は、薬剤師から薬局のラボ(確認試験・分析)と医薬品調合の仕事を軽減させるのが主な役割でした。1970年代、医師の処方に基づく医薬品調合や薬局オリジナル製品の製造は、現在よりずっと多く、これらの業務をPTAが担っていました。医療制度の改革にともない、薬剤師と共に処方箋業務、セルフメディケーション相談販売業務といった面対応業務も大切なPTAの仕事となっていきました。ドイツでは、1980年代にOTC医薬品の医療保険償還はずしが少しずつ進んで来ましたが、2004年からは1部の例外を除き、成人へのOTC医薬品完全償還外しとなりました。それに伴いPTAのセルフメディケーションの知識と対話能力がさらに問われるようになりました。以来、PTAの職能アップのため、連邦州薬剤師組合(日本の都道府県薬剤師会にあたります)主導や企業協賛のセミナーが多く開かれています。同じような目的でPTA専門雑誌も刊行されています。
 
 
(写真1)   (写真2)
 
写真1・2:PTA向け2大専門誌
学術・実務・法規など、あらゆる面でPTAの職能を磨くために必要な情報が満載
 
 
PTAは、50年にも渡りその職能を発揮し、薬剤師と二人三脚で薬局業務を支え、努力と向上心と柔軟性でその地位を確立してきました。コロナ禍の影響で業務環境は急変しそうですが、これからもPTAは必要とされ、多くの分野で活躍し続けていけると信じています。
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参考資料
adexa-online.de 50Jahre PTA-Gesetz
Deutsche Apotheker Zeitung 2018年11号 50Jahre PTA-Beruf
ドイツ薬局統計2020:Die Apotheke Zahlen・Daten・Fakten 2020

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