24時間医薬品供給体制を敷くドイツ
今回は、薬局の業務時間外勤務、すなわち、夜間・日曜祝祭日の勤務についてお話しいたします。ドイツの薬局は、法律により、患者さん・お客様がいつでもアクセスできる状態にあり、24時間体制で医薬品供給ができなくてはなりません。しかし、全薬局が毎日24時間、1年中お休みなしで営業することはできません。そこで、地区ごとに輪番制で業務時間外勤務を行っています。どの薬局も所属する地区の輪番制に加わる義務があります。当番薬局は、当日の朝から次の日の朝まで24時間連続で業務を行います。連邦州によって違いますが、朝8時もしくは8時半からスタートするところが多いようです。当番薬局には、通常の業務時間外も必ず最低1人、薬剤師が詰めていないといけません。安全上の理由から、夜間は専用の窓から対応し、薬局内に人を入れることはまれです。
当番地区に属する薬局数は、地域によって異なります。ですから、輪番で夜勤が当たる回数も地域によって異なり、薬局の比較的少ない当番地区では、それだけ、頻繁に業務時間外勤務が廻ってきます。そのようなところでは、毎日ではなく、週ごとに当番薬局を交代し、当番間隔を大きくすることもあります。地区内でどのように当番を振り分けるかは、薬局同士で話し合って決め、管轄の州薬局組合(Landesapothekerkammer)に許可申請します。1つの薬局に土日・祝祭日の当番が集中しないよう気を付けているようです。ドイツの薬局・薬剤師の大代表にあたるABDAが2015年に発表した統計によれば、全国で毎日約1400(2014年度)の薬局が夜勤を行いました。年間にしておよそ51万回の夜勤数。1局1年あたりの当番日数は、約25日です。
キリスト教国のドイツでは、原則的に日曜・祝祭日には、一般商店は営業してはいけないことになっています。各連邦州違いはあれ、平日も定められた閉店時間があります。夜8時以降は、大都市でも、多くの商店が店を閉めます。ドイツ人は、個人の生活や家族との時間を大切にします。各店が決めた時間通りに店は閉まり、閉店時間は、スタッフが帰宅する時間でもあります。閉店時間後、店内で片付けものをしたり、残業をすることはほとんどありません。
薬局は、分類では一般商店に入り、法律で定められた閉店時間を守る義務がありますが、同時に薬事関係法の絡みで国民に必要な医薬品を供給する義務もあります。そのような中で、薬局の営業時間外勤務制度は整ってきました。薬局の夜間・日曜祝祭日業務は閉店時間法上特別扱いということになります。一般に日曜祝祭日の当番日には、平日の当番日より患者さんが多い傾向にあります。当薬局が、日曜祝祭日に業務を行うときは、私、PTAも患者さんが集中する時間帯に時間外出勤します。処方箋業務が速くなり、できるだけ患者さんをお待たせすることがないように、また、相談販売では、充分時間をかけてアドバイスができるようにとの配慮からです。抗菌剤や解熱鎮痛剤の処方が多くなり、対応できるだけの在庫品目数と量が必要です。カゼや胃腸障害、軽いけがなどの応急処置用の医薬品も要ります。近くの小児科医院が当番に当たると、さらに処方箋が増え、素早い対応が求められます。当番小児科医院の中には、前もって薬局へ希望在庫リストを送り、主要処方医薬品を充分な量確保しておいてくださいと依頼してくるところもあり、薬局も事前対応して在庫量を増やします。幸い、医薬品卸会社の注文・返品体制がよく、当番のために前日までに多めに注文して、その後要らないものは、一定期間であれば、返品可能です。インフルエンザの流行時、花粉症時期など、患者さん・処方箋が特に多くなると思われる当番日前は、スタッフ総出で在庫チェックと棚出しを行います。
通常の営業時間外である夜勤時間・日曜祝祭日勤務時には、2.50ユーロの勤務料が加算され、患者さん負担となります。疾病保険会社によっては、この勤務料を負担しているところもありますが、近年その数は少なくなってきました。自己負担料の要らない18歳未満の患者さんも、この勤務料だけは負担しなくてはなりません。患者さんが持ってくる処方箋は、時間外診療をしている所なら、地区内外を問わず総合医や病院だけでなく、外科医や歯科医といった専門医からも来ます。
ネット薬局では、24時間注文可能です。スーパーなどの量販店では、要指示薬、OTC以外の医薬品で販売可能なものが手に入ります。しかし、夜間でも医薬品が手に入り、対面して、医薬品について質問したり、健康アドバイスを受けられるのはその地で営業する薬局だけです。大変ではあるけれど、この大切な当番業務を行えることに多くの薬局は誇りを持っています。PTAにとっては、ある在庫で柔軟に対応することを薬剤師と共に学ぶ
良いチャンスです。
皆様に次回もPTAの仕事についてお知らせできますことを楽しみにしています。
ドイツから心よりごあいさつ申し上げます。