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ドイツ薬局便り-35

ドイツ薬局便り
35
著者
アッセンハイマー慶子
● ドイツ薬局便り-35
なぜドイツへ行ったのですか?

 

2021.05.06

 

毎回、私事が多くて大変恐縮ですが、今回はドイツへ行った経緯をお話いたします。

日本へ帰省した際、薬学生の方々へ講義を行うようになってから早くも数年が経ちます。まさか自分自身が大学の教壇に立ち、学生の方々へお話をするようなことになろうとは、大学生時代には思ってもみなかったことでした。ドイツで学んだ薬学の楽しさ・幅広さを日本の薬学生の方々にも、できるだけ早く見つけてもらえばと思い、依頼があれば講義をお引き受けしています。希望して入学した薬科大学でしたが、薬学生当時、私は1回生から修学する有機化学、生化学や薬用植物学が、どれだけ後の仕事に大切か知らないで学んでいたどころか、薬剤師になって有機化学の知識を使うことがあるのだろうか、というようなことも考えていました。今では、当時もっともっと勉強しておけばよかったと思っています。

 

講義の後、楽しみなのが薬学生の皆さんから頂く質問です。必ずと言ってよいくらい聞かれるのが、この質問「なぜドイツへ行ったのですか?」です。ドイツは女性が憧れる国の№1ではなさそうだし、留学なら英語圏の方が行きやすいのでは、研究をするにしても英語圏の方が環境は整っているのでは…などの思いがあるのでしょう。私のドイツ行きが不思議なようです。

 

勉学の志に燃えていたわけではありません。特別成績が良かったわけでもありません。ドイツの大学院へ入るなんて全くもっての想定外でした。でも自分の夢を叶えるために一教授に勧められて渡独したのです。

 

薬剤師になることとオーストリアのウィーンに住むことが子供の頃からの夢でした。大学卒業後、旅費と滞在費が貯まったら1年くらいウィーンに滞在し、大好きな音楽家の演奏が沢山聴けたらいいなと思っていました。しかし、その後のことは全く何も考えていませんでした。卒業研究でお世話になった教授から、卒後は何がしたいのかを聞かれ自分の夢を話したら、「それほど外国に住みたいのなら、まずドイツの大学院で学位を取り、ドイツかオーストリアで仕事を見つけ、長期滞在ができる生活基盤を作りなさい。」と、言われました。「学部入学する方法もあるが、講義を聴いて、筆記と口頭の試験を受けられるだけの語学力は、いくらドイツ語が好きで勉強していたといってもないだろう。大学院なら与えられたテーマで研究すればいいし、文献は辞書を引きながら英語で読めればいい。いる間にドイツ語も上達するだろう。ドイツの大学は学費がいらないし、外国人留学生も一定枠で採用してもらえる。ドイツ人の知人に薬学部の教授がいるが、これまで多くの留学生が来たのに、日本人は、まだ1人もいないのを不思議がっている。珍しさもあって、私が紹介状を書いたら採用してもらえるだろう。行ったらなんとかなる。大丈夫だ。」と。憧れのオーストリアの隣国へ行けるのなら願ってもないことですが、教授はあまりにも楽観的です。研究がうまくいかなくて、採用してくださる教授にも紹介をしてくださる教授にも、ご迷惑をかけたらどうしようと心配で怖くて仕方がありませんでした。大学院へ行くなんて絶対無理だと思いましたが、「今行かないと後悔するよ。ダメなら、いつでも日本へ帰ってくればいい。」と、言ってくださいました。卒業研究で直接お世話になった講師の先生には、「あなたがトップ大学院生になれるなんて全く思っていないし、あなたもなろうなんて思わなくていいから、とにかく1度ドイツへ行っていらっしゃい。」と、言われました。

 

スゴイ贈る(送る)言葉だと思いましたが、それで肩の荷が下りました。「行くからには、立派な研究結果を出すように!」などと言われていたら、そのプレッシャーだけで潰れていたことでしょう。というわけで、ドイツ行きの目的は音楽聴き三昧、大学院入学はビザを取得・更新するための手段でした。ミーハーです。ドイツの生活や習慣に慣れるまで時間がかかり、辛いことも沢山あり、もうこれで日本への帰り時かと思うことが幾度もありました。そんな時でも頑張れたのは、応援してくれる研究室仲間がいて、教授や講師の方々が「せっかく来たのだから、学位だけは取って日本に帰りなさい。」と、おっしゃってくださったからでした。そして音楽が、へこんだ気持ちを立て直してくれました。大学町ということもあってコンサートは多く開かれており、日本では聴けなかった、お気に入りのアーティストの演奏も生で聴くことができました。さらに有難いことに、学生には、どの席でもチケットが半額になります。

 

今思うと、よく日本へ帰されなかったものです。ドイツで薬局を開設して20年以上が経ち、実習生をこれまでに何人も採用しました。私の力不足だからではあるけれど、薬局の仕事を何とかこなし、家族のことも考え・気を遣いながら(でも家族からはダメママと言われています。)若い人達を大切に育てるのは、本当に大変です。自主的に課題を見つけ、自分で勉強できる実習生もいれば、自分で考え動けるようになるまで、指示や、より多くの説明が必要な実習生もいます。いくら憧れて来たとはいえ、大学院ではドイツのことは右も左もわからない、1人では何もできない日本人留学生である私を、よく数年間も辛抱強く指導してくださったものだと思います。ドイツが外国人である私に与えてくれたものを、どのようにしてお返ししたらよいのでしょう?

 

当日本コミュニティファーマシー協会の吉岡ゆうこ理事長と出会い、ドイツの薬局事情を伝える役目をもらいました。この仕事をすることが、そしてドイツの薬局にも良いところがあることを伝えることが、日独でお世話になった方々への恩返しの1つだと思っています。

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