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JACP医薬品情報室-71

JACP医薬品情報室
71
著者
蔵之介

● 医薬品情報室-71
腎性貧血治療薬(HIF-PH阻害薬)
2023.04.15

 2019年11月、世界に先駆けて腎性貧血治療薬(HIF-PH阻害薬)のエベレンゾⓇ錠(一般名:ロキサデュスタット)が発売されました。その後も次々と開発され、2021年4月には、5剤目となるマスーレッドⓇ錠(一般名:モリデュスタットナトリウム)が上市されました。  
 腎性貧血は、以前は重症例では輸血しか治療法がありませんでした。1990年代にエリスロポエチン(EPO)注射薬が登場すると大きく進歩しました。しかし、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)は、すべて注射剤で、ESA抵抗性を有する患者や注射時の疼痛、高額な薬剤費などの課題も残りました。
 ヒトは酸素量が少なくなったときに、順応する仕組みを持っています。アスリートが酸素の少ない高地でトレーニングを行うのは、酸素を運ぶ赤血球を増やし、身体の持久力を高めるためです。2019年、米英の3名の研究者が「細胞が低酸素を感知し、応答する仕組みの発見」によって、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。低酸素状態のときにエリスロポエチン遺伝子を活性化するタンパク質「HIF(低酸素誘導因子)」や酸素濃度に応じてHIFの量を調節する酵素「PH(プロリン水酸化酵素)」を同定した功績です。HIFがHIF -PHの働きで水酸化されると、それを目印にプロテアソームがHIFを分解します(図)。HIF -PHを抑制すると、酸素濃度に関わらず低酸素応答が活性化されます。HIF-PH(ヒフ・ピーエイチ)阻害薬は、エリスロポエチンの産生誘導だけでなく、赤血球の材料となる鉄代謝の促進作用があります。開始用量は、透析の有無、ESAによる前治療の有無、ESAの投与量等により異なります。また、定期的にヘモグロビン濃度(Hb)を測定する必要があります。相互作用は、鉄剤や下剤などの多価陽イオン含有製剤との併用で血中濃度が大きく低下します(併用注意)。ESA の副作用として、貧血改善に伴う血液粘稠度や血圧上昇が知られています。このため血栓塞栓症や高血圧などの既往症がある人では注意が必要です。さらに、がんや網膜疾患など、血管新生が疾患の増悪に働くような病態では、新たな副作用の可能性も否定できないので、適応の可否を慎重に判断します。なお、日本腎臓学会HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendationでは、「ESA と HIF-PH 阻害薬の併用は想定されておらず行うべきではない」とされています。 

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