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JACP医薬品情報室-11

JACP医薬品情報室
11
著者
蔵之介
● JACP医薬品情報室だより 11
アスピリンとバイエル・クロス

 

2016.08.22

 

古代ギリシャの医聖ヒポクラテスは、柳の樹皮を解熱鎮痛薬に、葉を出産の痛みの緩和に用いました。このためヨーロッパでは、伝統的に白柳の樹皮がリウマチに使われて来ました。その有効成分はサリチル酸で、苦味と強い胃腸障害があります。バイエルのフェリックス・ホフマンは、リウマチの父親がサリチル酸ナトリウムの吐き気に苦しむのを見て、一念発起し、1897年にサリチル酸をアセチル化したアセチルサリチル酸を合成しました。アセチルの頭文字、サリチル酸の別名のスピール酸から「A-spir-in」と命名しました。バイエルの「アスピリン」は極めて純度が高く、BAYERをYで重ねたバイエル・クロスは信頼の証でもありました。ところで、日本薬局方には、第三改正(1906年)からアセチルサリチル酸と慣用名のアスピリンが収載され、五局(1932年)からはアスピリン(バイエルの商品名)が一般名として載っています。何故でしょうか?その理由は、1914年に勃発した第一次世界大戦でドイツが敗れ、国家賠償の対象としてバイエルの商標権が没収されたからです。「フェナセチン」もバイエルの商品名ですが、こちらは商標登録されていなかったので、最初から局方に一般名として収載されています。バイエルは、染料会社として1863年に創業しました。最初の医薬品のフェナセチンは、青色染料のインディゴの製造過程で大量に余る産業廃棄物から産まれました。また、国際的には、一般名のパラセタモール、商品名のタイレノールのほうが有名ですが、「アセトアミノフェン」はフェナセチンの活性代謝物です。バイエルは、その後、ヘキストなど8大化学会社と巨大化学工業IGファルベンに発展し、ナチス政権下で神経ガスを製造しました。第二次世界大戦後、この悪名高い企業は解体され、再スタートを切りました。現在、「アスピリン」の商標登録はドイツ国内ではされているようですが、日本では登録がなされていません。医薬品も、いろいろ複雑な歴史がありますね。

 

  by 蔵之介

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