● 医薬品情報室-76
アルツハイマー型認知症治療薬(レケンビ点滴静注)
2024.5.1
2023年9月、抗アミロイドβ抗体薬のレケンビ点滴静注〔一般名:レカネマブ(遺伝子組換え)〕が、米国に次いで承認されました。アルツハイマー病(AD)の原因物質であるアミロイドβ(Aβ)を除去する、初めての根本的治療薬。先行したアデュカヌマブ(遺伝子組換え)は、承認が見送られ、継続審議中です。
認知症の約7割を占めるAD型認知症は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体阻害薬による「対症療法」が主です。ADの発症機序として、APP(アミロイドβ前駆タンパク質)から2種類の酵素(β/γセクレターゼ)により切断されたAβ(42個のアミノ酸からなるペプチド)が、次第に重合して、神経細胞の外側に「老人斑」として沈着。それが引き金となり、タウタンパク質が過剰にリン酸化されて糸くずのような「神経原線維変化」を形成し神経細胞内に凝集します。このタウの異常な蓄積により神経細胞が破壊され脱落した結果、脳が萎縮して認知機能低下が現れます。この神経変性が10~20年かけて緩徐に進行し、ADを発症するというのがアミロイドカスケード仮説です。
2003年、「Aβを注射すれば、抗体を生じて老人斑が除去される」という発想のもとADワクチン「AN1792」が誕生しましたが、脳脊髄炎による副作用のため開発中止。その後、ワクチンではなく、抗体そのものを創薬する方向に転換。バピネウズマブとソラネズマブが開発されましたが、対象となった「軽度から中等度のAD」に効果は認められません。その後の研究で神経毒性の本体は、Aβのモノマー(単量体)やオリゴマー(重合体)、凝集して不溶性になった老人斑(フィブリル)ではなく、その前段階である可溶性のプロトフィブリルが示唆されました。そこで、標的をプロトフィブリルに変更し、対象を「発症前駆段階の軽度認知障害(MCI)と軽度AD」に設定することで、有効性を証明できました。作用機序は、Aβプロトフィブリルに結合した抗体を「目印」に免疫細胞(ミクログリア)が貪食し、Aβプラークを減少させると考えられます。適用には、アミロイドPETによるアミロイド蓄積の確認か、脳脊髄液によるアミロイドβ低値の所見が必要になります。重大な副作用として、アミロイド関連画像異常(ARIA:アリア)と呼ばれる脳画像の異常所見があります。Aβは神経細胞のほか血管壁にも蓄積するため、Aβを除去すると脳内で浮腫(ARIA-E)や微小出血(ARIA-H)が起こる可能性があります。また、ARIAに伴う症状と考えられる頭痛、めまい、視覚障害などの副作用があります。