● 医薬品情報室-88
高齢者向け高用量インフルエンザワクチン(エフルエルダ)
2025.12.1
2024年12月、高齢者向け高用量インフルエンザワクチン、エフルエルダ筋注(一般名:高用量インフルエンザHAワクチン)が承認されました。60歳以上の高齢者のインフルエンザ予防の新たな選択肢として期待されています。
インフルエンザウイルスの外膜(エンベロープ)には、宿主細胞に侵入する際に必要なヘムアグルチニン(HA)とウイルスの増殖後、宿主細胞から遊離する際に必要なノイラミニダーゼ(NA)という突起(スパイク)があります。ワクチンは、HAを抗原にした感染力のない不活化ワクチンです。臨床的に問題となる季節性インフルエンザは、A型とB型です。A型はHA16種類、NA9種類のサブタイプがあり、変異が激しく、毎年、微細な変化を繰り返します。一方、B型は遺伝子的に安定しているため変異が少ないです。標準用量のインフルエンザワクチンは、A型(H1N1亜型、H3N2亜型の2種類)とB型(ビクトリア系統、山形系統の2種類)の4価ワクチン、各15μgずつ計60μgの抗原を含有しています。ワクチンは、基礎疾患のない若年成人では中等度の有効性を示します。一方、加齢による免疫機能の低下(免疫老化)やフレイル、合併症が多い高齢者では、十分な免疫応答が得られにくいことが知られています。そこでエフルエルダは抗原量を1株当たり4倍の60μg(計240μg)に増量し、接種方法を皮下注から筋注に変更しました。不活化ワクチンは血流が少ないと十分な免疫を誘導できないため、海外では筋注が推奨されています。治験データでも、標準用量製剤を凌駕する抗体上昇が認められました。高齢者は筋注による接種刺激で迷走神経反射(失神・徐脈・めまい)を起こす可能性があるので、接種後30分程度はゆっくり腰掛けるなど、体調に変化がないことを観察します。単回接種用のプレフィルドシリンジ製剤のため、チメロサール(防腐剤)フリーです。



