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ドイツ薬局便り-21

ドイツ薬局便り
21
著者
アッセンハイマー慶子
● ドイツ薬局便り-21
武田薬品工業の買収劇  製薬会社のグローバル化は、どこへ行く?
2018.06.24

 

武田薬品工業によるアイルランド製薬会社、シャイアー買収に関する記事は、ドイツでも報道されました。日本企業として過去最大のM&A、財務負担の大きい社運をかけた買収であることに驚きました。2014年、日本企業である同社が、グローバル化を目指し、外国人を社長に招いた時も驚きました。世界企業を相手にグローバルな仕事のできる人材を、なぜ、業界トップ企業が自社から育てられないのだろうかと。今後の経営状況によっては、国内最大製薬企業が潰れてしまうかもしれないし、さらに大きな国際企業に買収されることになれば、同社が日本企業でなくなるかもしれないのです。製薬企業には、有効性・安全性・品質共に優れた医薬品を安定供給し、自国民の健康と命を守る使命があります。
製薬会社が危険な賭に出ることに、誰かストップをかけられないのでしょうか?大きな売り上げにつながる新薬の継続的な開発は、トップ製薬企業の大きな課題です。大型新薬が少なくても安定した経営ができる薬価体制や国の企業支援というのはユートピアでしょうか?医薬品なくして医療は成り立ちません。国内で必要な医薬品は、自国で生産できるのが理想です。そこに、国が関与したり、競合相手ではあるけれど、製薬企業同士が協力したりできないでしょうか?

自分が働く会社が国際企業として大きくなり、世界ランキングの上位に名を連ねるのは誇らしいことでしょう。株式会社であれば、利益をさらに大きくしないと、株主も納得しない。でも、あまりに大きくなりすぎて、利益という数字ばかりを追いかけると、製薬企業が何をするために存在しているのかに目が向きにくいのではないでしょうか?医薬品のあるなしは、人の命にかかわります。利益を追求するのが企業であっても、医薬品を扱う会社には、特別なモラルが求められます。

ドイツでも製薬会社の合併・買収や部門の交換があります。新薬開発部門に力を入れるため、OTC医薬品部門を切り離し、他社に渡すこともあります。ジェネリック会社の再編成も進んでいます。長年、良い製品を製造していたドイツの中小製薬企業が、家族経営で後継者がいない、経営陣の決断などの理由で、他社に、それも他国企業に吸収されたと聞く度に、残念な思いがします。吸収・合併後、経営の効率化でリストラにあったMRさんや受注担当の方々が、「今回がセントラル薬局に来る最後の日です。当社の製品は引き継がれるのでこれからもよろしく!」と、おっしゃるのを聞くと、なんとも複雑な気持ちです。「当社を吸収した会社は、とりあえず全製品・全社員ごと採用してくれたけれど、これからどうなるのかなぁ」と、不安を隠せない方もいます。

グローバル化により、自国のみならず進出国への何らかの貢献がないと、その企業は受け入れられないと思います。また、製薬会社の吸収・合併が極度に進んだ結果、医薬品の製造・供給が偏り、局限化すれば、グローバル化の逆行にならないでしょうか?行く方向の正しいグローバル化であってほしいと願います。

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