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ドイツ薬局便り-20

ドイツ薬局便り
20
著者
アッセンハイマー慶子
● ドイツ薬局便り-20
スーパーから白い卵が消える日

 

2018.04.22

 

冴えないFS小説タイトルのようですが、今回は復活祭(イースター)に関するお話です。

 

キリスト教国であるドイツは、宗教行事に関連した祝祭日があります。十字架にかけられ亡くなったイエス・キリストが復活したことをお祝いする復活祭もその1つです。学校は約2週間お休みです。この復活祭は、毎年期日が変わります。春分の日が満月であるか、そうでなければ、次の満月の日を待って祝日が決まるので、早い年は3月下旬、遅い年は4月下旬に復活祭が来ます。今年は、3月30日(金)、4月1日(日)と2日(月)が祝日でした。

 

復活祭には、鶏卵を着色料で染めて、復活祭卵(イースターエッグ)をつくる風習があります。お子さんのいる家庭では、色とりどりに染めたゆで卵を庭に隠し、子供達に探させます。誰が一番沢山見つけるか競争です。この染料を薬局では小分け販売しています。薬局へ様々な品物を配送する総合卸は、医薬品のみならず、化学品や試薬、乾燥ハーブも扱っています。総合卸から仕入れた染料を鶏卵約10個分が染められる分量に袋詰めにし、内容や用法を印刷したシールを貼って販売するのです。

 

復活祭卵用の合成着色料をスーパーやドラッグストアで購入できるようになって久しいのですが、薬局で販売する自然由来の着色料は、今でも人気があります。黄色、ピンク、グリーンが定番です。黄色にはウコン、ピンクはコチニール、グリーンには水溶性クロロフィルやマテ茶を使います。作った着色溶液に食酢や重曹を加えて色を変えたり、着色液の濃度を変えたりして、色のバリエーション、デグラデーションを楽しめます。

 

もう18年くらい前になるでしょうか、保険局から通達があり、昔から使用されていたコウキ、アカネ、アカミノキなどの赤色と青色の植物性染料が復活祭卵の着色用に販売できなくなりました。理由は、食品添加物として未許可ということでした。毒性が確認されたからというわけではありません。古来使用してきた染料が突然販売できなくなり、「道理にはかなうけど、今更そんなことを言われても…」と、多くの薬局は困り果てました。いろいろ試してみましたが、代用品になる鮮明な赤色をつけるものが見つかりません。青は合成のインディゴカルミンが使えます。これまで、どこの薬局でも入手できた赤色と青色が使えなくなったと聞いて、多くの家族は愕然です。「復活祭の楽しみが減ってしまうので、どうしても売って下さい!」と、言う方もいらして、薬局のカウンター越しに押し問答が続くこともありました。そこで、薬局の中には、「工芸用のみ」と、シールに明記して販売しているところもあるようです。

卵の殻に着色し、工芸用カッターで模様を彫り込んでいくと、綺麗な飾りができあがります。昔は、中身をのぞいた卵の殻に模様をつけたり、色紙やビーズを貼り付けたり、着色したりして復活祭用の飾りを各家庭で作っていたようです。ドイツとポーランドの国境地帯であるソルブ地方で作られる、卵の殻を使った伝統工芸品は有名です。色や模様にそれぞれ意味があります。

自家製の飾りを作る手間暇を惜しみ、壊れにくく収納の簡単なプラスチック製の卵の飾りを購入することもできます。これらを、柳、ネコヤナギ、レンギョウやヘーゼルナッツなどの切り枝につるします。

 

卵を着色するには、白色の卵が必要です。復活祭前になると白い鶏卵が品薄になります。スーパーによっては、「このパックは白色鶏卵だけです」と、表示して販売しているところもあります。

ドイツでは法律により、日曜・祝祭日に一般商店・スーパーは営業してはいけないことになっています。「働き方改革」を目指す日本も少し参考にできないでしょうか?金曜日とその後の日曜日と月曜日が祝日になる復活祭ですが、土曜日だけお店が開いています。しかし、卵は、どこもすでに完売。スーパーから白い卵が消える日です。

 

日本の学校では新学年が始まり、多くの薬局では新人薬剤師の方々を迎えたことでしょう。

皆様、良いスタートを切って下さい。

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