● ドイツ薬局便り-25
ドイツ薬局の最強パートナー、医薬品総合卸
2019.10.21
幣協会が毎年開催している7月のフォーラムには、今年も多くの方が参加してくださり盛況でした。遠方からお越しくださった方々も多く、心より御礼を申しあげます。
私の基調講演で「ドイツの薬局は、ネット販売である…ドット・コムよりも速く、品物をお客様にお届けしています!」と、述べたら、会場から笑い声が上がりました。ちょっと大袈裟に聞こえたのでしょうか?各薬局が迅速に必要な製品を入荷できる、その秘密は医薬品総合卸にあります。今回はドイツ薬局の頼もしいパートナーである、医薬品総合卸(後、略して卸)についてお話いたします。
通常、薬局は卸2社と契約を結んでいます。1社を第1(メイン)卸とし、こちらに在庫がなかったり、品物によって他方の割引率が良い場合であったりすると第2卸に注文します。
卸と薬局との距離にもよりますが、第1卸は1日に3~4回、第2卸は1日に2~3回配送をしてくれます。平均規模の当薬局へも、下記のように1日7回の配送があります。
第1卸
受注締め切り時刻 配送到着予定時刻
10時10分 12時30分
12時50分 15時30分
15時30分 18時00分
18時30分 03時30分
第2卸
受注締め切り時刻 配送到着予定時刻
12時30分 14時30分
15時30分 18時00分
19時30分 22時30分
えっ、営業時間外、それも夜中に配送しているのですか?どうやって薬局内に届くのですか?と、よく質問を受けます。卸には搬入室の鍵を渡し、屋内に配送箱を置いてもらえ、しかし、薬局設備内には入れないようになっています。
薬局から卸への注文はインターネット介して行います。注文数秒後に卸より受注完了の連絡があり、レセコン画面で確認できます。卸が、受注から配送出発準備完了までに必要な時間は、30~45分だそうです。薬局と卸はインターネットで常時つながることができ、注文したい品物が卸にあるか、ボタン1つで即刻確認できます。ですから、目の前の患者さんやお客様に、「ご希望の製品は、次の配送で…時までに来ます。取りにいらっしゃいますか、それとも、お届けしましょうか?」と、お伝えできます。注文すれば、1店舗で何でも揃うので、患者さんやお客様には便利なシステムになっています。たとえば、皮膚科医がステロイド軟膏を処方し、患者さんに交替用の包帯やガーゼと治療後の保湿用ケアローションを薬局で買い求めるように指示したならば、薬局はそれらを全て取り揃えることができます。
ドイツ薬事法(Arzneimittelgesetz、略してAMG、ドイツ語からの直訳は医薬品法)52条bは、医薬品総合卸が取引先薬局の需要に合わせ、扱えるいかなる製品もメーカーの偏りなく揃え、平均2週間分の在庫を抱えることなど、卸の役割を定めています。卸の平均規模の物流拠点で、およそ10万品目を約10億円分くらいの在庫量で抱えているそうです(ある卸のセールス担当の方に伺いました)。中規模薬局約100店舗分の在庫量になります。全国展開している卸は、だいたい各連邦州ごとに1つの物流拠点を置いています。片道約2時間かかるところまで配送するそうです。
医薬分業制度により、ドイツの診療所やクリニックには調剤部門がありませんので、卸は薬局にしか配送しません。病院は必ずしも病院薬局を設置しているとは限らないので、卸が病院薬局のない病院へ医薬品を配送することはできません。
卸は、医薬品(医療用、OTC、薬局以外でも購入できる一般用〔ドイツ語ではfreiverkäuflich〕)のみならず、サプリメント、医薬部外品、化粧品、衛生用品、介護用品、医院で必要なディスポーザブル注射器や注射針などの治療用品など幅広く取り扱っています。
薬局で販売できる商品リストは、Lauer-Taxe®といってメーカーを問わず、どのレセコンにも搭載されています。同リストには、約40万品目が収載されています。収載品目にはPZN(Pharma Zentral Nummer)と呼ばれる8桁のID番号がついています。この番号は、メーカー・卸・薬局間の受注・発注に使用され、物流をスムーズにしています。同じ品物あっても、卸ごとに注文番号が違っていては混乱します。PZNは薬局が医薬品費を保険請求する際にも使われ、疾病保険会社での監査・償還業務の効率を上げています。
卸への支払いは、月末締めの翌月15日払いが一般です。疾病保険からの支払いも同じ期日であり、医薬品償還費を卸の支払いに充てることができるようになっています。
2004年以来の厳しい医療費抑制政策のあおりで、卸の経営も大変だそうです。しかし、より良い品揃えと、変わらぬ迅速な配送サービスで薬局の業務を支え続けてくれています。