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ドイツ薬局便り-28

ドイツ薬局便り
28
著者
アッセンハイマー慶子
● ドイツ薬局だより-28
皇帝フリードリッヒ2世と薬価

 

2020.05.20

 

新型コロナウイルス感染の拡大状況は、ドイツ国内で少し落ち着きをみせてきました。5月6日より新たな規制緩和となり、動物園や町の公園の閉鎖は解かれ、依然として休業中だった大型店舗も営業開始できるようになりました。しかし、感染拡大は完全に下火になったとはいえません。爆発感染拡大の第2波が来ないよう、店内に入ったり、公共交通機関を利用する場合は、他者との間隔を充分に取り、マスクを着用することが義務づけられています。

製品を提供できる会社が多くなってきたとはいえ、5月になった今もマスクや消毒液は品薄状態です。価格は高騰したままで、コロナ禍以前、50枚入り1箱が数ユーロ以下で薬局へ入荷していたサージカルマスクは、現在1箱50ユーロ前後の入荷価格になっています。薬局へは、マスクや消毒液の販売会社から毎日FAXやメールが届きます。薬局向けに衛生用品などを販売してきた聞きなれた会社名もありますが、今までメールやFAXを受け取ったこともない会社からもどんどん注文シートが届いています。サージカルマスクは数時間ごとに取り替え、使い捨てにするのが望ましいのですが、この入荷価格では末端消費者に優しい小売価格を提示できないので、ため息がでます。

このような有事でも医療用医薬品には薬価があり価格が変動しないことが、いかに大切であるか、改めて認識ました。マスクのように入荷価格が高騰したら大変です。価格が乱高下するかもしれないとなると、どこの薬局もオンデマンドでしか医薬品を仕入れなくなり、在庫を置かなくなります。卸もメーカーも同じことをすれば、緊急時に医薬品供給が麻痺していまいます。

ドイツ皇帝・シチリア王であったフリードリッヒ2世(1194-1250、フリードリヒ2世と書かれることもあります。父方がドイツ皇帝家、母方がシチリア王家)は、13世紀半ば医薬分業を制定しただけでなく、公定薬価という概念も編纂した法律書に導入しました。医薬品を必要とする患者の足元を見て、品薄であることを理由に薬剤師が勝手に薬価を設定し、暴利をむさぼっては医療人の倫理に反します。しかし、薬価がなければ、どのような価格をつけても罰せられません。

作家、塩野七生氏が同皇帝について「フリードリッヒ2世の生涯」という上下2巻の歴史小説を著作されています。本の帯には、同氏が構想に45年をかけ、どうしても書きたかった人物であった旨、印刷されています。同皇帝が欧州で1番初めに国立大学を創立し、民間からも優秀な人を入学させたことや、皇帝自身が文芸・科学に大いなる興味をもっていたことが書かれています。当時、欧州の大学はキリスト教会の聖職者や宮廷の官僚を養成する機関であり、学問をしたい人が誰でも入れるところではありませんでした。飛行機も鉄道も自動車もない中世という時代に、ドイツとイタリア南端シチリアの2つの離れた場所を治めるのは大変なことだったのだと想像します。皇帝フリードリッヒ2世は、どのような思いで医薬分業を導入したのでしょうか?資料によっては、毒殺されるのを恐れて医師と薬剤師の仕事を分離したとも言われています。

新型コロナウイルス感染阻止で、どこの薬局も緊張が続く中、少しでも気持ちが和らげばと思い、市内で撮影した春・初夏の植物の写真を添えたいと思います。

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