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ドイツ薬局便り-30

ドイツ薬局便り
30
著者
アッセンハイマー慶子
● ドイツ薬局便り-30
インフルエンザ予防注射争奪戦

 

2020.09.28

 

毎年のことながら、インフルエンザ予防注射の適量注文数を決めるのは薬局長の悩みの種です。100%医薬分業のドイツでは、病院・医院といえども薬局を通さないと予防注射を含めた医薬品が入手できません。インフルエンザ予防注射の大手メーカーは、毎年2月頃、開業医と薬局へ注文表を郵送し、確実に入手できるよう早めの注文を促しています。注文締め切り期日はメーカーにもよりますが、遅くても4月末から5月末です。開業医の注文表には、数と配達依頼する薬局名を記入することになっています。薬局の注文表には、数とそれを配送する提携卸名を記入することになっています。しかし、この時点で注文する開業医は少なく、多くはインフルエンザの流行具合を見て、必要に応じて薬局に注文しています。それでは、遅いのですが...

 

そこで、薬局ではある程度の在庫がないと開業医の急な注文に対応できません。1シーズン限りで期限も認可も切れる医薬品であり、流行具合により毎年必要量が大きく変わるので正しい予測がつきません。返品が利かない医薬品ですので、薬局は慎重に少なめに注文せざるをえません。それは、医薬品卸も同じですので、薬局が急に大量注文しても、シーズンによっては希望数がもらえなかったり、順番待ちになったりすることがあります。そのシーズンのインフルエンザ予防注射は、毎年9月の中旬から発売されます。メーカーにより、1本、10本、20本詰めの箱サイズがあり、注射針が接着したものと注射針のない両方を揃えたメーカーもあります。小児科医院は針なしの予防注射剤を希望するところが多いようです。

 

被保険者の予防注射料金は、疾病保険が支払います。インフルエンザ予防注射には、3価と4価のものがあります。シーズン2017/2018までは、リスク患者だけに4価のインフルエンザ予防注射が保険償還されていました。他の被保険者は、3価の注射が償還対象でした。シーズン2018/2019より、全希望被保険者に4価の注射料金が法定疾病保険でカバーされるようになりました。ドイツの感染症専門機関であるロベルト・コッホ研究所の傘下にある予防接種委員会(STIKO)が国民に奨励する予防接種の種類を決定します。同委員会が4価のインフルエンザ予防注射を奨励していることもあり、シーズン2018/2019以後、ドイツで使用されるものは4価のみです。

 

新型コロナとインフルエンザのダブル感染による重症化を防ぐため、「今年は特にインフルエンザの予防接種を奨励します」と、あちこちで聞こえ始めたのは、注文締め切りがとっくに過ぎた夏。販売できる数は既に限られているのに、予防接種を奨励するメディアは無責任です。数ヶ月かけて製造する予防注射剤なので、メーカーも今更増産は出来ません。治療・診療用医薬品をお届けしている医院から、8月になって急に注文と問い合わせの電話がかかってきました。それらの医院には、4月に「今年は、最低必要量を注文しておきませんか?」と、お伺いしたのに...どのメーカーも追加注文は、もう出来ませんとの回答で、取引先の医薬品卸に予約して、予備量からもらってくださいとのこと。全国の薬局から同じような問い合わせが沢山来るのだと思います。メーカー担当者の困った様子が、電話会話のなかからうかがえます。医院には、「残念ながら今シーズンは、前注文なしの希望量入手は難しいですよ。」とお答えするしかありません。予備量から必ず何とかしてくださいと依頼してくる前注文のなかった薬局の対応に、医薬品卸の注射剤発注・在庫管理担当者も追われているようです。取引先の医薬品卸からは、顧客担当の方が時々挨拶にみえますが、この時期はインフルエンザ予防注射の件で頭が痛いと、先日、当薬局へいらした時におっしゃっていました。顧客担当者にも、薬局の「何とかして下さい!」コールが毎日頻繁にかかるそうです。こうして、毎年、予防注射の争奪戦が繰り広げられますが、今年の状況は特に厳しそうです。これに懲りて、医院は来年、メーカーに前注文をしてくれるでしょうか?

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