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ドイツ薬局便り-34

ドイツ薬局便り
34
著者
アッセンハイマー慶子
● ドイツ薬局便り-34
やってきた新型コロナウイルスワクチン

 

2021.04.14

 

2021年4月6日よりドイツでは保険開業医が新型コロナウイルスワクチンの接種を始めました。ワクチン接種希望者は多く、これまで各地に設けられた接種センターだけでは接種率が上がらないからです。医薬分業により医師は(獣医の例外を除く)ワクチンを含む医療用医薬品を卸やメーカーに直接注文できません。診療に必要な医薬品は、診療用処方箋を提携薬局へ出して、そこから医院へ配達してもらうことになります。

 

保険開業医院で新型コロナウイルスワクチンの接種を始めるというニュースが広がったのは、復活祭の休日がはじまる少し前です。医院をはじめ卸や薬局では、どのように注文し運ばれてくるか、しっかりした、そして充分な情報がない中、ワクチン接種開始日だけが公表されて皆大慌てです。日本のお盆やお正月にあたり、キリスト教国にとってはクリスマスと同様、1年で最も大切な祝日が続く復活祭の前に、このような重大発表されても困ります。日本で言えば、お正月3ケ日が終わった次の日から接種を開始してくださいと言っているようなものです。お休みが続く中、ワクチンの輸送や保管に携わるには、メーカーも卸も薬局もお休み返上で計画を立て、準備をしなくてはいけません。ドイツ連邦健康省は、そこまで考えていてくださったのでしょうか?

 

現在入手可能なのは、BioNTech/Pfizer社のComirnaty®です。4月下旬からは、AstraZeneca社の新型コロナワクチンも開業医用に供給が始まる予定です。医院は来週に必要な量を前週火曜日のお昼までに薬局へ注文します。BioNTech/Pfizer社製品の注文単位は1バイアルで、接種6回分です。薬局が提携卸に発注すると翌日水曜日に、次週何本バイアルが入荷できるかわかります。薬局は、その日のうちに医院へ入手可能量を伝えます。現在、メーカーからのワクチン供給量は不足気味で、必ずしも希望注文量全てが貰えるわけではありません。医院は薬局から入荷情報を受けると、ワクチン接種希望者に連絡し、来週の接種プランを立てます。患者さんの診療も通常通り行っています。ワクチンを120時間という短い期限内に無駄なく効率よく使用するにあたり、医院スタッフの電話連絡・接種予約業務は膨大なものだそうです。

 

輸送・配達には特別な注意が必要で、注文を受けた薬局はどこも非常に気を遣います。Comirnaty®の場合、卸へはマイナス75℃で冷凍されたワクチンが届きます。卸では、その時点で2-8℃に冷蔵するのですが、そこから有効期限120時間がカウントダウンされます。この120時間のうち、配送に費やして良い時間は12時間です。医院へお渡しする納入書には、卸・薬局・医院への到着時刻と配送時間を記入することになっています。

 


【写真1】ドイツで配布される接種手帳

5mLしか容量のない小さなバイアルなので、接種手帳(Impfpass)に張り付けるロットシールが添付されていません。必要数のロットシールは、薬局で作成・プリントして医院にお渡しすることになっています。メーカーが準備したプリントプログラムをネット上で利用することもできます。接種には、ロスの少ない特別な注射器が必要で、卸の方でバイアル1本ごとに必要なキットを揃えることになっています。この分包手作業が大変です。卸各社のこのご苦労を誰がねぎらってくれるのでしょう?キット内には、生理用食塩水10ml、筋注用注射針6本、調製用注射針1本、注射器6本が入っています。注射針と注射器は注文量に応じ、予備を医院へ配達のことと指示が出ています。緊急時の為に、抗ヒスタミン注射剤、エピペンも同時注文した医院がありました。接種開始に向けて準備に余念がありません。

 

当薬局への第1便は4月6日に届きました。冷蔵はもちろんのこと、輸送中の衝撃を避け、転倒しないよう梱包されて、この超VIP扱いの小さなお客様は薬局へやってきました。

 


【写真2】提携卸から運ばれてきたワクチン入りのバイアル

 

届いた瞬間、「着いたわよーっ」と、スタッフ一同大騒ぎ。第1便とあって卸の配送係の方も、ちょっと緊張気味です。復活祭の休暇中で、患者さんに連絡が取りにくかったり、医院も休診中だったりで、接種スタート第1週目に注文する医院は少なかったのですが、それでも注文した数が貰えるかどうかわからないとのことで、医院も薬局もどうなることかと心配しました。

 

ワクチン接種の予約が取れた人や来局者から、新型コロナワクチンの安全性に関する質問が増えてきました。スタッフは手すきの間に、メーカー、欧州医薬品庁(EMA)、パウル・エーリヒ研究所(予防接種やバイオ医薬品に関する国の専門機関)などからの有効性・安全性情報をネット上で集め読み込んでいます。

 

メーカーはシリーズで数回にわたり新型コロナワクチンに関するオンライン研修を行い、医院や薬局が安心して業務にあたれるよう努力してくれています。19時のスタートで、4月8日に第1回目の研修がありました。スタッフ全員が聴きたいと言ったので、それぞれ自宅で聴けるよう長距離通勤の者は早く帰宅させました。実務に役立つ内容の濃い研修だったので次の研修も楽しみだと皆喜んでいます。mRNAを医薬品として使用する技術開発をしてきたBioNTechの意気込みが感じられます。

 

Comirnaty®の2回目接種は3週間後となっています。初回用に2回目用の注文が加わり、これからも薬局は注文量確保に右往左往することになりそうです。

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