薬局における医薬品の調合
当市ロッテンブルク(人口約4万人)には、町の中心部に2軒の皮膚科医院があります。
その1医院に一番近いのが当薬局です。同医院からの処方箋が多く、数種のスタンダードな調合の他に、患者さん個人に合わせた軟膏・水剤の調合も行います。
箱出し調剤のドイツでは、通常、軟膏類も製薬会社が製造した完成品を、添付文書が入った箱ごと患者さんにお渡しします。
サイズも2-3種類あります。例えば、ベタメタゾン吉草酸エステル配合のクリームですと、25g、50g、100g、ローションは30mL、60mL、100mLサイズの製品があります。医師の希望する成分の組み合わせや容量がメーカー品になかったり(小さすぎる、大きすぎる)、基剤を変更したかったり、調合すれば保険請求価格が低くなる場合(医師の処方予算節約になります)に処方が出て、薬局で調合を行います。
※医師の処方予算節約に対する注釈(吉岡ゆうこ)
ドイツのクリニックはまさに地域包括ケアで、疾病金庫(保険者)と保険医協会は、協議により地域ごとに予算が決められ、その予算枠に基づいて各地域の保険医協会が保険医ごとの予算を配分していきます。(総額請負方式)
各保険医は四半期ごとに診療報酬点数表に基づく請求を行い、保険医協会の経済性審査後、予算内におさまるように調整されて各保険医に配分されます。予算をオーバーしていてもオーバーした分は支払わません。それで処方予算以内に収めようとする医師のインセンティブが働きます。
薬局では主に軟膏、その他、水剤、カプセルなどの調合をします。粉末の調合は、ほとんどありません。処方箋には、有効成分、調整・安定剤、および基剤の名前とその濃濃や量が示されています。使用法や使用量も処方箋には表記されています。調合用の処方箋を受け取ると、薬局では処方内容をチェックしプロトコールします。この作業をPlausibilität(Plausibility)試験と読んでいます。
確認項目は、
・成分濃度の適正
・成分と基剤の相性(適正pH、安定性、配合変化)
・用法・用量の適正
目的は、調合される医薬品の安全性、有効性、安定性の確認です。
調合する医薬品の安定性を確立するため、基剤の変更、pH調整や保存料が必要な場合は処方医師に疑義照会します。処方内容に問題なしと確認されたら、調合開始です。
調合処方に関してはNRF(Neues Rezeptur-Formularium)という標準処方があり、数冊の公定書になっています。ドイツ薬剤師連盟(日本薬剤師会にあたる組織です)の諮問機関の1つが、NRFの監修・改定を行います。NRFホームページでネット検索や処方内用に関する問い合わせもできます。
http://dacnrf.pharmazeutische-zeitung.de/
調合には、自動攪拌機を使用するか、調合鉢(Fantaschale)を使って手動で調合するかの、2つの方法があります。
例えば、保湿クリームに配合される尿素は、まず陶器製の乳鉢ですりつぶし、結晶を細かくしてから軟膏基剤と自動撹拌します。軟膏自動攪拌機は、20年前くらいから薬局への導入が始まりました。改良も進み、ジェル剤、ローションなどの剤形対応や、撹拌容量のアップ、前記NRF処方内容がプログラミングされている機種もあり、多機能性になってきています。自動攪拌機を使用することで、均一成分の軟膏が短時間ででき、作業の効率化につながります。
薬局内で調合される医薬品は、すべて調合レポートを作成し保管する義務があります。計量すべき成分・基剤などの分量と実際に計量した数値を書き込んでいきます。使用した原料の確認試験番号(調合に使用する原料は、薬局に入荷された際に確認試験を行い、確認試験番号をつけます)も記録します。用法・用量もレポートに記入します。各薬局で使用するレセコンソフトには、調剤用プログラムも入っていて、調合レポートをパソコン上で作成し、プリントアウトできます。同じ調合用プログラムを使い、患者さんの名前や処方内容を記載したラベルをプリントアウトして容器にければ、調合完了です。
ドイツ薬剤師連盟の資料によると、軟膏・水剤などの一般調合数は、1薬局あたり年間平均約300件です。各薬局1日1調合している計算になります。
PTAは、薬局で行う調合を担い、薬剤師がより多くの時間を学術業務にさけるようサポートしています。