●JACP医薬品情報室だより 29
抗悪性腫瘍薬(イブランスカプセル)
2018.12.11
2017年12月、抗悪性腫瘍薬のイブランスカプセル(一般名:パルボシクリブ)が発売されました。適応症は、手術不能又は再発乳がんです。
進行・再発乳がんの5年生存率は約30%と低く、新たな治療薬が望まれていました。イブランスは、CDK4/6を阻害する世界初の分子標的薬で、2013年4月に米国食品医薬品局(FDA)よりブレークスルー・セラピー(画期的治療薬)の指定を受け、迅速承認された薬です。
細胞周期は、S期(DNA合成)→G2期(準備)→M期(分裂)→G1期(準備)という過程で進行します。Rb(Retinoblastoma:網膜芽細胞腫蛋白質)は、無秩序に増殖しないよう調節するがん抑制遺伝子です。腫瘍細胞では、サイクリン依存性キナーゼ(CDK:Cyclin Dependent Kinase)4 及び 6とサイクリンDの複合体が過剰活性化され、Rbのリン酸化が促進して無制限に分裂を繰り返すようになります。進行・再発乳がんの約70%はホルモン受容体陽性ですが、サイクリンDの過剰発現によりホルモン抵抗性となっていきます。
イブランスⓇは、CDK4/6 を選択的に阻害して細胞回転を止め、がんの増殖を抑制します。また、併用される内分泌療法は、サイクリンDの過剰発現を抑え、CDK4/6を間接的に阻害するので抗腫瘍効果が増強されます。ホルモン受容体(HR)陽性かつHER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)陰性の進行・再発乳がん患者を対象とした臨床試験で、抗エストロゲン薬(フルベストラント)あるいはアロマターゼ阻害薬(レトロゾール)との併用で、無増悪生存期間(PFS:progression-free survival)を約2倍に延長しました。骨髄抑制による血液系の副作用が高頻度に発現しますが、DNAを損傷する化学療法とは異なり、回復性のある細胞周期停止なので、概ね1週間の休薬で副作用は回復します。