免疫チェックポイント阻害薬(ヤーボイ点滴静注液)
2015年8月、免疫チェックポイント阻害薬のヤーボイ点滴静注液〔一般名:イピリムマブ(遺伝子組換え)〕が発売されました。細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)を標的としたモノクローナル抗体による抗がん薬です。
米テキサス大学(現テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター)のジェイムズ・P・アリソン教授は、1995年にCTLA-4を発見し、ヒト型抗CTLA-4抗体を開発しました。この功績により、抗PD-1抗体を発見した本庶佑教授とともに、2018年にノーベル賞を受賞しました。
樹状細胞は、がん細胞を貪食するとがん抗原ペプチドに分解し、MHC(主要組織適合抗原)上に抗原提示をします。免疫の司令塔であるT細胞は、TCR (T細胞受容体)を介して、がん抗原を認識します。その上で、T細胞と樹状細胞が結合すると、2つのシグナルによりT細胞は活性化されてキラーT細胞となり、がん細胞を攻撃します。同時に、正常細胞は攻撃しないように抑制性の免疫チェックポイントであるCTLA-4(Cytotoxic T-lymphocyte antigen-4)が発現し、樹状細胞に結合ことで過剰な免疫応答は抑制されます。がん細胞は、これを巧みに利用して免疫機構を回避します。ヤーボイⓇは、CTLA-4に結合し、ネガティブフードバックを阻害することで、免疫機構のブレーキを解除します。また、免疫反応を調節する制御性T細胞(Treg:ティレグ)の機能低下と腫瘍組織におけるTreg数の減少を誘導します。これらの働きにより、抗がん効果は増強されます。免疫チェックポイント阻害薬は、有効性が高い反面、免疫反応の促進または過剰による下垂体炎や腸炎、皮疹などの特有な有害事象を引き起こすことがあります。計4回の投与終了後から数ヵ月経って副作用が発現した例もあるので、投与終了後も観察を十分に行う必要があります。