新型コロナウイルス感染症治療薬(ベクルリー点滴静注)
2020年5月7日、抗ウイルス薬のベクルリー点滴静注用(一般名:レムデシビル)が特例承認されました。米国では、同年5月1日に緊急使用許可(Emergency Use Authorization)、10月22日に正式承認されたので、世界で最初の新型コロナウイルス感染症治療薬になります。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、RNAウイルスであるSARS-CoV-2による感染症です。生物の遺伝情報は、DNA→転写《RNAポリメラーゼ》→mRNA→翻訳《リボソーム》→タンパク質の順に伝達されます。RNAウイルスは、RNA依存性RNAポリメラーゼを使い、DNAではなくRNAを鋳型に1本の長いアミノ酸の鎖を合成し、プロテアーゼで必要なタンパク質を切り出します。
レムデシビルは、ウイルス特有のRNA依存性RNAポリメラーゼを阻害することで、ウイルスの増殖を抑制します。新型インフルエンザ治療薬のアビガン錠(一般名:ファビピラビル)も同様です。元々は、エボラ出血熱の治療薬として開発されました。同じRNAウイルスのエボラウイルスに対する比較試験の結果では、抗体製剤に有意に劣りました。このためレムデシビルをエボラ出血熱治療薬として承認した国はありません。
現時点での有効性、安全性のデータは極めて限られているため、可能な限り全例調査、文書による十分な説明と同意書、販売数量の報告などの承認条件が付きました。原則として、酸素飽和度 94%以下、酸素吸入を要するなどの重症患者が対象となります。重大な副作用として、急性腎障害や肝機能障害、インフュージョン・リアクションなどが報告されています。当面、日本への供給量が限定的なため、日本政府が買い上げ、厚生労働省が医療機関へ配分します。
日本救急医学会と日本集中治療医学会は、9月9日に日本版敗血症診療ガイドラインの特別編(COVID-19の薬物療法)を公表しました。そのなかで軽症患者への投与は「推奨」しない、酸素投与/入院加療を必要とする中等症患者、人工呼吸器管理/集中治療を必要とする重症患者については「弱く推奨する」としました。なお、COVID-19 に関連するエビデンスは、時々刻々変化しており、常に最新情報を確認する必要があります。