● 医薬品情報室だより-49
コロナ対策室2
2020.06.22
『新型コロナウイルス感染症』に関する蔵之介の個人的なメモです。JACPの公式見解ではありません。記述は2020年5月時点での情報です。
【ウイルス遺伝子の検出】
・PCRは、ポリメラーゼ、チェーン・リアクション(ポリメラーゼ連鎖反応)Polymerase Chain Reactionの略。DNA合成酵素(ポリメラーゼ)を使って、微量の遺伝子を増幅させて検出する核酸増幅法のこと
【PCR原理】
・2つのプライマーで指定されたDNA断片が、DNAポリメラーゼとサーマルサイクラー(高温と低温を自動的に繰り返えす装置)により2の倍数で増加する。20サイクルで、DNA断片が百万(220)倍に増幅できる
・プライマーは、DNA合成の開始点となるヌクレオチド(核酸の基本単位)
DNAポリメラーゼは、プライマーがないとDNAを複製できない
・DNAポリメラーゼは、DNA鎖を鋳型に、二本鎖DNAを複製する酵素
3'末端→5'末端方向に読み取り、5'末端→3'末端方向に伸長合成する
・サーマルサイクラーは、PCR法 によりDNA断片を増幅させる機器
・DNA:遺伝情報を長期間、保存できるデオキシリボース(糖)、二本鎖、安定
塩基:アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)
・RNA:遺伝情報を短期間、保存できるリボース(糖)、一本鎖、不安定
塩基:アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、ウラシル(U)
・DNAは二重らせんで、必ずGにはCが、AにはTが対応する
・PCR検査は、ウイルスの遺伝子(ゲノムDNA)を増幅させて検出する
・検体は、綿棒による鼻咽頭ぬぐい液か唾液〔唾液は研究用、臨床は申請中〕
新型コロナウイルスは唾液中に多いことが判明、味覚障害との関係は?
・新型コロナウイルスはRNAウイルスなので、逆転写リアルタイム-PCR法
・逆転写(RT:Reverse Transcription)は、RNAからDNAを合成する過程
・リアルタイム-PCRは、蛍光試薬により増幅状態をリアルタイムに把握できる
・PCR検査の陽性率は70%程度(感度70%、特異度99%)
*感染者の30%が陰性、非感染者の1%は陽性と判定される
【PCR法】新型コロナのDNA(中国の研究グループが発表した遺伝子配列)
① 患者の鼻に綿棒を挿入し、鼻咽頭の粘液や細胞を採取する
② ウイルスのRNAからDNAを作成する
RNAは不安定なため、安定したDNAに変換する
③ 【熱変性】(Denaturation)デナチュレーション
高温(95℃、1~3分)にすると、二本鎖 DNA が一本鎖に解離する
④ 【アニーリング】(Annealing)
標的DNAの隣接領域に短いDNA断片(プライマー)を結合させる
短い一本鎖 のDNAで、増幅したい領域を挟むよう 2個作成する
⑤ 【伸長反応】(Extention)エクステンション
DNAポリメラーゼが、プライマーを起点に3′末方向に相補鎖を合成する
専用の装置(サーマルサイクラー)を用いて、①熱変性→②アニーリング→③伸長反応という3段階の温度変化による反応を繰り返す。米イエローストーン公園の温泉から発見された耐熱性DNAポリメラーゼにより可能になった
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【抗体検査】
・抗原は、ウイルス、花粉、卵、小麦など、生体に免疫応答を引き起こす物質
・抗体は、抗原を体外へ排除するために作られる免疫グロブリンの総称
・血清タンパクは、アルブミンと免疫グロブリン(α1、α2、β、γ)がある
・抗体検査は、患者血液から特異抗体(ある抗原に特異的な抗体)を検出する
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自然免疫
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獲得免疫
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細胞性免疫
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マクロファージ、好中球
NK細胞
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キラーT細胞
ヘルパーT細胞
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液性免疫
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補体
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免疫グロブリン
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・自然免疫は、好中球、マクロファージ、樹状細胞などの食細胞が担当
・獲得免疫は、樹状細胞がキラーT細胞とヘルパーT細胞に抗原情報を提示
キラーT細胞は、特定の抗原を攻撃する(細胞性免疫)
ヘルパーT細胞は、B細胞に抗体をつくるよう指令する。
抗体は、血液中に溶けて特定の抗原を攻撃する(液性免疫)
・免疫グロブリン(Immunoglobulin、略称Ig)とは、γ-グロブリンのこと
・イムノグロブリンは、血液や体液中にあって抗体としての機能を持つ蛋白質
・免疫グロブリンには、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類がある
・IgM(感染初期)、IgG(感染後)、IgE(アレルギー)に関与する
・感染直後は、抗体は検出されない(早期診断には適さない)
・IgMは数日後に上昇する(感染の初期)ただし、新型コロナは上昇が弱い
・IgMは5量体で、10個の抗原結合部位があるが、弱い抗体
・IgGは1週間後から上昇し、数年間持続することもある(既感染)
・IgGは2個の抗原結合部位しかないが、強い抗体
・中和抗体は、ウイルス感染阻止能(中和能)を有する抗体(免疫獲得)
・中和抗体NAbs (Neutralizing Antibodies)、 ニュートラリゼーション抗体
・ウイルス表面のスパイク蛋白質に結合し、細胞への感染を阻止する
・新型コロナの中和抗体は、発症後、10~2週間後に検出された
迅速簡易検出法
【イムノクロマト法】Immunochromatography Assay
・迅速に測定できるが、イムノクロマト法の検査薬の精度は低い
【酵素免疫測定法】(ELISA:Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)
・イライザ法はイムノクロマト法より精度が高い
判定は
IgM
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陰性
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陽性
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陽性
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陰性
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IgG
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陰性
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陰性
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陽性
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陽性
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判定
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非感染
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感染初期
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感染中
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免疫獲得
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【抗体検査キット】
・抗体キットは、IgM、IgGの2種類
・IgMで感染の早期診断?、IgGは治癒後も測定可能・既感染の判断補助に
・抗体検査をしても、感染しているかどうかは分からない
・抗体が陰性でも、感染していないとは言い切れない
・IgMが陽性でも、感染症状がでてくるとは限らない
・IgG抗体がある=免疫獲得、今後、感染しないとは言えない
・抗体の濃度により推測はできるが、精度は低い
・信頼性が低いキットも多くある(使えるのは3/14程度?)
・新型コロナ以外の風邪のコロナウイルスに反応してる可能性が否定できない
・米国でのデータ、感度80~93.8%、特異度96~99.5%、
有病率5%の場合、陽性的中率は55.2%、陰性的中率は99.7%
・新型コロナでは、IgGが先行して上昇し、IgMの検出は総じて低かった
【抗原検査】
・ウイルスの抗原(特有のタンパク)に結合する
・抗原検査はPCR検査より多くのウイルス量が必要
・ウイルス量が多い場合、精度はPCRと同程度
・ウイルス量が少ない場合、PCRよりかなり劣る
・PCR検査は4~6時間かかるが、同検査は約30分
・陽性は感染確定、陰性は→医師の判断でPCR検査へ
【イムノクロマト法】
・インフルエンザの迅速診断:エスプライン SARS-CoV-2(富士レビオ)
・PCR検査と比較した陽性一致率は66.7%、陰性一致率は100%
・感度がやや劣るが、迅速性に優れ偽陽性(非感染者を感染者と判定)が少ない
・陽性なら確定診断ができる
・陰性の場合は感染を否定(除外診断)できない
・陰性の場合は、医師がPCR検査を行うかどうか判定する
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検体
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測定対象
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意義
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精度
測定時間
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保険
適応
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PCR検査
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鼻咽頭拭い液痰、唾液
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ウイルスの
RNA
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現在の感染
確定・除外診断
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高い
6時間
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あり
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抗体検査
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血液
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抗体
(IgM、IgG)
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過去の感染
現在の感染か
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低い
約30分
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なし
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抗原検査
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鼻咽頭拭い液
痰
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ウイルスの
蛋白質
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現在の感染
確定診断
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やや低い
約30分
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あり
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・潜伏期1~14日、感染後5日で発症、発症の1~2日前が最も感染力が強い
・感染力は、発症から7日以内で急速に低下した
・PCRは、確定診断に
発症前後でも検出できるが、ウイルス量が減少すると検出できない
・抗体検査は、既感染の確認などの疫学調査に
・抗原検査は、PCRの前に行うスクリーニング検査に
【免疫獲得】
終生免疫
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細菌
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ジフテリア、百日咳など
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ウイルス
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はしか、水疱瘡、おたふく風邪
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数ヶ月から数年
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細菌
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赤痢、破傷風、流行性髄膜炎
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ウイルス
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インフルエンザ、ポリオ、デング熱
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免疫がほとんど成立しない
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ウイルス
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ヘルペス、サイトメガロウイルス
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・SARSでは、感染後4ヶ月で抗体はピーク、その後3年かけて低下した
【基本再生産数】病原体の感染力 R nought(ゼロを意味する)
・R0: Basic Reproduction Number R0(アール・ノートと読む)
・1人の患者が治癒するまでに、何人の患者に感染させるか
水痘8~10人、麻疹16~21人、インフルエンザ2~3人
新型コロナのリプロダクションナンバーは、1.4~2.5人
【実効再生産数】REまたはRtと略される (エフェクティブかタイム)
・時期 t においてワクチンを打つなど一定の対策をした上での再生産数
・Rt: time-dependent Reproduction Number、Effective Reproduction Number
R0 < 1 の場合(R値が1未満):感染は収束。感染者数は減少に向かう
R0 = 1 の場合:地域的に流行し続ける。新規の感染者数は横ばい
R0 > 1 の場合(R値が1以上):感染が拡大。感染者は指数関数的に増加する
【集団免疫】
・特定の集団の何割が免疫を得たら感染流行が収まるか
・多くの人が免疫を持っていると、免疫を持たない人に感染が及ばなくなる
・新型コロナの再生産数が2-3人ならば、60-70%に免疫があれば成立
【免疫パスポート】(Immunity Passport)
・抗体検査を行い、感染したが回復して免疫を獲得したことを証明する
・COVID-19から回復した人は抗体があるが、抗体量は非常に少ない
・再感染のリスクはゼロではないし、持続期間も不明
・WHOは否定的 「抗体検査が陽性だとしても再度感染しない証拠はない」
【検査の正確さの指標】・感度と特異度は、トレード・オフの関係
・感染者の見落とし (偽陰性)と非感染者の紛れ込み (偽陽性)は必ず発生する
【感度】
・本当の感染者を正しく陽性と認定する確率(真陽性率)
・感度が高い検査は、除外診断に用いられる
・感度を上げると、偽陰性は少なくなるが、偽陽性が多くなる
【特異度】
・正常者を陰性と正しく認定するする確率(真陰性率)
・特異度が高い検査は、確定診断に用いられる
・特異度を上げると、偽陽性は少なくなるが、偽陰性が多くなる
【真陽性】「感染あり」で陽性 【偽陽性】「感染なし」なのに陽性
【真陰性】「感染なし」で陰性 【偽陰性】「感染あり」なのに陰性
【陽性的中率】正しく感染者と判定できる割合
【陰性的中率】正しく非感染者と判定できる割合
【有病率】集団のある一時点においての感染(疾病)有りの割合
【検査前確率】検査の対象となる人のうち感染(疾病)を有する人の割合
・集団スクリーニングは、対象をハイリスク集団に絞って行うべきもの
・PCR検査は「感染確率の低い大きな集団に実施すればするほど精度が低くなり、無意味な検査になってしまう」一方で、「感染確率の高い小さな集団に行うと陽性の判定については信頼性が高い。だが、陰性だからといって感染していない証明にはならない」 ワイドショーでは、PCR検査の不足を喧伝してるが…
・新型コロナの有病率が低い時は、濃厚接触者などに絞って検査を行う
・陽性的中率を上げるよう病歴、身体初見、重症度から検査前確率を上げる