ペットを大切にする国、ドイツ
2018年は戌年。今年初めの薬局便りでは、犬と動物用医薬品のお話しをしてみたいと思います。
ドイツには約800万匹の飼い犬がいるそうです。飼い主は、在住の自治体に所有する犬を登録する義務があり、飼い主には犬税が課されます。犬は、家の中で飼い主と一緒に暮らすのが普通です。レストランやカフェでは、飼い犬を連れて入れるところもあり、テーブルや椅子の下で行儀よく、おとなしく座っている犬を見かけることがあります。町々には、犬の学校があり、飼い犬も社会の一員として生活すべく、きちんとしつけられるようになっています。犬は飼い主と一緒に公共交通機関を利用でき、バスや電車に乗車することも許可されています。その際は、大人料金の半額切符が必要です。救助犬や盲導犬は、乗車券がいりません。自分の飼い犬が、人や他人のペットに怪我をさせた場合などのため、賠償責任保険の加入義務もあります。また、狂犬病ウイルス、パルボウイルス、レプトスピラ菌、犬ジステンパーウイルス、犬伝染性肝炎ウイルスへの感染予防接種が法律で義務付けられています。
人体医療用と同じく、動物用医薬品も、要処方箋医薬品、薬局指示薬(いわゆるOTC医薬品です)、薬局以外でも購入できる自由販売医薬品に3分類されています。薬剤師のみが調剤権を持つことが医薬分業の要となりますが、ドイツでは、薬剤師の他、例外的に獣医師にも調剤権を認めています。獣医は、薬局を通さずに動物用医薬品を入手し、必要時に処方・販売することができます。もちろん獣医師や飼い主が薬局で動物用医薬品を購入することも可能です。 しかし、畜産分野で使用される動物用医薬品は、薬局を介して流通されることはほとんどありません。薬局では、個人が所有する小動物や馬などに使用される医薬品を主に取扱います。その際は、箱出し調剤で、添付文書の入ったオリジナルパックをそのままお渡しいたします。代金は全額購入者負担です。動物医療保険に加入している飼い主は、まず、薬局で医薬品代を全額払い、後に保険会社から償還してもらいます。人体用医薬品を動物に処方する場合もあります。
薬局で求められる動物用OTC医薬品の多くは、寄生虫やマダニの駆除薬です。医療用では、関節炎治療薬の処方が多いです。犬も高齢になると、関節障害が出やすくなるのだそうです。冬の寒いドイツでは、凍結予防に岩塩を道路に撒きます。これが、素足で歩くペットには、怪我や皮膚炎の原因になることがあります。当薬局では、獣医から処方箋が来る頻度は比較的少ないので、処方用動物薬の在庫を置いていません。そこで、頼りになるのが提携している医薬品総合卸です。次の配送で注文品が届くので、在庫のない動物用医薬品も短時間で飼い主にお渡しできます。「次の配送で必ず届けてもらってくださいね。大丈夫ですよね。」と、念を押す、心配顔の飼い主もいらっしゃいます。対応時の会話で、飼い主が、いかにペットを大切にしているか、家族同様に思っているかが伝わってきます。
当薬局のスタッフの1人は、ドイツ赤十字の救助隊員で、要請があれば飼い犬の救助犬と共に、行方不明者の捜索といった救助活動に出かけます。暗い森や林の中で捜索する時、お供の救助犬は、心強い、そして頼もしいパートナーだと彼女は言っています。救助犬というと、大きな犬ばかりをイメージしていたのですが、狭い所へもどんどん入って行ける小柄な犬も捜索には向いているそうです。いつでも出動できるよう、双方、心身ともに健康管理が大切だそうです。
我が家では犬を飼っていませんが、ご近所に、長い黒毛のとても大きなシェパード犬がいました。飼い主のおばあちゃまは、お天気の良い日には必ず、午後4時に犬と散歩に出かけられ、次女が幼いころは、よく一緒に連れて行ってくださいました。我が家の玄関前で「お散歩よー」と、声がかかり、娘が外へ飛び出していくと、犬が大喜びで2人の周りを飛び跳ねます。たまに、娘が家にいない日は、それは悲しそうな顔をして頭を少し垂れ、心なしか足取り重く、おばあちゃまだけと散歩に行きます。見ている私の方が気の毒になるような、がっかりの仕方です。犬は忠実な動物だと言われているのが実感できました。大好物だというので、おばあちゃまの許可を得、牛の骨をあげたことがあります。かなり厚みも大きさもあるのに、あっという間にバリバリ噛み砕いて食べてしまいました。ものすごい顎の力にびっくり!一緒に見ていた義母も主人も目を丸くしてしまいました。こんな大きな犬が襲いかかって来るとしたら、人間は、ひとたまりもないと思いました。おばあちゃまと義母は、「人間の歳にすると私たちと同じくらいらしいのに、入れ歯がいらずに固いものが食べられるなんて羨ましいですよねぇ!」と、顔を見合わせて笑っていました。ペットは、ご近所とのつながりを作るようです。数件先にお住まいの家族が飼っているカメが、庭から脱走した時には、同じ通りに住む方々が、ほぼ総出で探したことがあります。皆さん、親身になって一生懸命に探し回り、ドイツ人の優しさが見えた1日でした。
長年一緒だったペットを失ったと、顧客の方が薬局で嘆かれることがあります。大切にされていただけ、ペットを失った時の飼い主の悲しみは大きく、どのような言葉をおかけしたものかと真剣に考えてしまいます。落胆している後姿をカウンター越しに見送りながら、次に来局される時、少しはお元気になっていらっしゃいますようにと願います。